第73話 悪徳王子タイラスの最後
「こうしてまたお目にかかれて光栄です」
心にもないことを告げてから、本題へと移る。
「グロームの軍勢に夜数多の侵略行為は……あなたの差し金でしたか」
「な、何をバカな!」
「言い逃れはできませんよ?」
「ぐっ……」
タイラス王子のこの反応……まさかとは思うが、独断か?
いや、だとしてもこれだけの兵力を一気に動かせるものだろうか。そもそも、エクルド王国への侵攻についてだって、相手の国に落ち度があったわけじゃない。表面化していない政治的な問題が背景にあったとしても不自然さは拭えない。
「あなたはもしや……ご自身の判断で騎士団を?」
「そいつはちょっと違うみたいだ」
追及している最中に、背後から声がした。
振り返ると、そこにはスレイトンの姿が。
「どういう意味だ、スレイトン」
「ここへ来る途中に辺りを見回してみて思ったんだが……ここにいるのは正規の騎士たちじゃないみたいだ」
「何っ?」
「大方、金で雇った傭兵ってところかな。――いや、それでもプロと呼べるようなヤツは少なそうだ。金に目がくらんで参加したチンピラどもって感じだな。忠誠心の欠片もありはしない連中だよ」
それでうまく統率が取れていなかったのか。
「王子……あなたがエクルドへ偽の騎士たちを指し向けた最大の理由は早急に手柄が欲しかったからでしょう?」
「っ!?」
項垂れていたタイラス王子は勢いよく顔をあげ、スレイトンを睨む。
「どうやら図星のようですな」
「な、なぜそれを……」
「聖女カタリナと教会関係者がすべて暴露しましたよ」
「な、なんだと!?」
この情報は俺も驚いた。
聖女カタリナと言ったら、タイラス王子がもっとも目をかけていた存在。彼女の神託があったからこそ、俺を国外追放できたわけだし。
その聖女カタリナが、大勢の教会関係者とともに真相を話したというのか。
「まあ、彼女はどうもあなたに洗脳されていたようですが……他の教会関係者たちからも似たような証言が得られています」
「う、嘘だ! 俺は知らん! 俺は何も知らんぞ!」
「往生際が悪いですね。――あの音が聞こえませんか?」
「音だと!?」
スレイトンに言われて、タイラス王子は耳を澄ます。
俺やリリアン、アルもそれにつられて集中していると――これは……馬か?
「本物のグローム王国騎士団が、今こちらに向かってきています」
「っ!? あ、あり得ない!?」
「レオン第一王子があなたの悪事に気づいたようです」
「あ、兄上が……」
レオン第一王子はタイラス王子の兄であり、王位継承の最有力候補であった。弟であるタイラス王子は、なんとかして兄から王の座を奪うべく、国内での地位を高めることに力を注いでおり、俺を追いだして聖女カタリナを推しだすのもその一環だったのだ。
だが、その野望はあえなく潰えた。
タイラス王子が放心状態となり、それと同時にグロームの兵たちは全面降伏を申し出たのだった。
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