第65話 助っ人

 俺たちのもとへ近づいてくる者の正体――それは、


「エルカ様!」

「っ!? オーガンさん!?」


 王都の商会トップであるオーガンさんだった。

 

「ど、どうしてここに!?」

「グロームの軍勢が魔境への総攻撃をはじめるという話をスレイトンから聞き、なんとかお力になろうと馳せ参じました。あちらにとめてある馬車の中に武器がありますので、そちらもお使いください」

「っ! あ、ありがとう、オーガンさん!」


 ここへ来て、強力な助っ人が加入してくれた。

 早速、持ってきてくれた武器を確認すると――これは凄い。どれも一級品ばかり。明らかに騎士団が使っている物よりも上質だろう。

 それに、魔力を注ぐことで発動する魔道具も充実している。

 これなら戦力差をグッと埋められるはずだ。

 

「数で劣る分、こちらは武器のクオリティで勝負をしましょう」


 オーガンさんからの提案を受けて、俺は静かに頷く。

 みんなに武器を配っている中、俺は先ほど出てきたある人物の名前が気になってオーガンさんに尋ねてみた。


「あの、スレイトンはあの軍勢の中に?」


 友人であり、騎士でもあるスレイトンは、この大攻勢に参加しているのだろうか。

 その返事は――


「いえ、彼はいません。スレイトンは――己がなすべきことをすると言って、騎士団からも姿を消したようです」

「き、騎士団から姿を消した?」


 あの超がつくほど真面目なスレイトンならば、今回の戦いがどれほど無意味なものかよく分かっているはず。だから参戦はしていないだろうと踏んではいたが……まさか騎士団そのものからいなくなっているとは。


「ですが、彼はこのまま引き下がる男ではありません。必ずや秘策を持ってこの場に駆けつけてくれるはずです」

「……俺もそう思っています」


 スレイトンが何をしようとしているのかは分からないが、間違いなく彼は何かしらの形でこの戦場に駆けつける。根拠があるわけじゃないけど、それだけは断言できた。


 そうこうしているうちに、敵との距離はだいぶ縮まっていた。

 まもなく、交戦状態となるだろうが――それよりも気になったのは相手の動きだった。


「なんだ? ただ真っ直ぐに突っ込んでくるだけか?」


 真正面から魔境へ向かってくるグローム軍。

 もっと慎重に、トラップ系魔法を警戒しながら進むべきだと思うのだが、そういった配慮は一切見られなかった。

 その結果――


「ぐわあっ!?」

「どわあっ!?」

「ぬおおっ!?」


 オーガンさんの持ってきたトラップ用魔道具の効果で敵の進軍はストップ。隊列も大きく乱れ、パニックに陥ったようだ。


「やはり、急造の騎士たちばかりのようですな」


 唖然としている俺たちを尻目に、オーガンさんはしてやったり顔だった。


「ど、どういうことなんだ?」

「王都から消えた者たちの中には騎士も多く含まれており、兵力がガタ落ちしているのです。そのため、高い給金につられてきた者や、中には囚人も含まれているという噂もあります」


 つまり、内部はボロボロというわけか。

 ――イケる。

 これなら、ヤツらを突き崩せるぞ!

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