第64話 高まる緊張感
グロームの軍勢が迫る中、俺たちは迎撃の準備を整える。
今回の戦いは、この魔境の未来を左右する大事な一戦――絶対に負けるわけにはいかないのだ。
魔境村を今のまま成長させていきたいという思いは、人間である俺たちだけではない。
「やるしかなさそうだな」
協力をしてくれるのは魔境のヌシに名を連ねる三つ目の魔犬アルベロス。彼とその配下のモンスターたちが、俺たちと一緒にここを守るために戦ってくれるという。なんとも心強い助っ人だ。
本当はパーディとゾウィルも力を貸してくれたら助かるのだが……アルよりも人間に慣れていない二体にそこまで求めるのは酷だろう。俺たちに友好的な態度を見せているパーディの娘のホミルは、もしかしたら駆けつけてくれるかもしれないけど。
ともかく、見えない協力者に期待するのはやめておこう。
今、この場にいる戦力でなんとかしなくちゃな。
俺たちはグロームとの戦いに備え、軍勢のいる魔境の入口付近へ多くの戦力を投入した。
「さて……向こうはどう出ると思います?」
リドウィン王国の貴族であるイベーラが神妙な面持ちで尋ねる。
「……すぐには動いてこないでしょうね。こちらの出方をうかがっているのかもしれません」
「随分と慎重なのですね」
「移住してきた人たちの話を聞く限り、今頃になって国民の多くが離れ、国力が大幅に低下していることに気づいたようですから……相当焦っているのだと思います」
ちなみに、彼女の祖国であるリドウィンには使い魔を派遣しており、それがうまくたどり着ければ増援が見込めるはずだ。
もちろん、俺たちで対応できればそれに越したことはない。
こちらには竜玉の指輪もある。この力さえあれば、どのような戦局にも柔軟に対応できるはずだ。
「エルカ様! 敵が動きだしました!」
魔境の外に出てグロームの様子を探っていた先遣隊から報告が入る。
ここで動きだしたということは……恐らく、エクルド王国の国境付近に展開しているという他の部隊も行動を開始するはずだ。
「い、いよいよですね……」
リリアンの声が緊張で震える。
彼女も騎士としてこれまで多くの戦場を渡り歩いているはずなのだが、今回はその敵がちょっと前まで自分が所属していた騎士団――つまり、味方となっている。彼女からすればやりづらいことこの上ないだろう。
……そういえば、あの中にスレイトンもいるのだろうか。
だとしたら、俺もかなり戦いづらい。
商人たちの話では、スレイトンは商会のオーガンさんと結託していろいろと動いていたようだが……その詳細も分からないままこのような状態になってしまったからなぁ。
ともかく、向かってくるというなら迎え撃つまでだ――と、その時、俺たちがいる場所へ近づく存在の気配を感じた。
「気をつけろ、エルカ。何者かが近づいてくるぞ」
アルも気づいて忠告してくれる。
果たして、俺たちに近づいてくる者とは、一体誰なのだろうか。
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