第56話 報告と対策

 アルとパーディ。

 二体のヌシが魔境へ移住を始めた人間と友好関係にある事実を知ったゾウィルの態度は少し変化を見せていた。

 残念ながら、表立って友好関係を築くというわけにはいかなかった(パーディもまだその域には達していないけど)が、今後はむやみやたらに人を襲わないと誓ってくれた。


 気がかりなのは、そのゾウィルが目撃したという謎の兵士たち。

 恐らく、彼もその兵士たちの存在を警戒して俺たちとの対立を避けたのだろう。仮に相手の中に凄腕の魔法使いでもいようものなら、さすがのヌシたちでも対応しきれるかどうかは分からないからな。


 そうなってくると、俺たちだけじゃなく、ヌシたちを守る戦いに発展する可能性もあるってわけか。それこそ、彼らの協力があれば問題なく蹴散らせると思うのだが。


 しかし……もしその兵士たちが俺たちに敵対行動をとってくるとなったら、こちらもしっかりとした防衛策を練らなくてはいけない。



 村へと戻った俺とリリアンは、早速みんなを集めて報告会を行った。

 みんな――と、言ったけど、さすがに村へ移住をしている全員では屋敷に収まりきらないので、代表者数人に来てもらう。


 そこで、俺はゾウィルの件と彼が目撃した謎の兵士についての話をした。

 まず反応を示したのがイベーラだ。


「傭兵ではなく、どこかの組織に属する者であるなら……これはかなり大問題ですね」

「うん。俺もそれを危惧しているんだ」


 エクルド王国の騎士たちがその存在を知らないというなら、他国の騎士である可能性も浮上する――が、そうだとしたら、明らかな不法入国であり、おまけに武装した兵士を展開しているとなったら国際問題への発展は避けられないだろう。


 これはかなりリスクのあることだ。

 正直、よほどの事情がない限り、このような手に打って出る国などない。


「……よほどの事情、か」

 

 そんな言葉が脳裏によぎったと同時に、グローム王国の名前も一緒に浮かんできた。

 移住者たちの話を聞くと、かなり切羽詰まった状態であるらしいからな。


 かつては大陸でも有数の大国であったが、ここまで魔境への移住者が増えると今やそれも過去の栄光となりつつある――プライドの高いタイラス王子が、このまま引き下がるとも思えないし。


「……うん。防衛を強化して、周囲に見張りを立てよう」


 それでどこまで防げるのか、効果としては強い期待を寄せられるものではなかったが、何もしないよりはずっとマシだろう。


 できれば、周辺国とも情報を共有しておきたい。

 今のところ、この魔境近辺とエクルド王国内で確認されているが、イベーラたちの故郷であるリドウィンにも出没しているかもしれないし、こちらがブラフで本命がそっちという可能性もある。


 村の完成を前に、慌ただしくなる魔境。

 ただの思い過ごしか、それとも――

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