第55話 和解?

「おまえは……パーディの娘か?」

「久しぶりですね、ゾウィルおじさん」


 大蛇ゾウィルの声色が変わる。

 というか、ホミルは彼を「ゾウィルおじさん」って呼んでいたが、もしかして顔見知りだったのか?

 いや、アルとゾウィルが知り合いという時点で、パーディとも交流があったと考えるのは自然なことだが……どうにも、アルの時とはゾウィルの様子が異なる。

 アルの時は、最初から攻撃的な気配をまとっていた。

 しかし、今は違う。

 相手が子どもだから、ゾウィルも強気に出られない?

 ……でも、ちょっと意外だな。

 ゲームではもっとも理性ってものに縁遠い存在だったはず。

 ここまでの言動も、人間を信じずに襲ってくるという面を見せるものの、落ち着いて話し合いができないわけでもなさそうだ。

 ただ、理解を得るまでに時間はかかりそうだが。


「なぜ貴様がここにいる?」

「この人たちに聞きませんでした? 母が協力をすることになったので、私も助けに来たんですよ」

「何? まさかパーディが本気で人間を?」


 あっ、信じてなかったのか。

 まあ、アルが特別友好的(それでも最初は警戒していたけど)なだけで、普通の反応はそうなるのかも。

 けど、ここで娘のホミルが真実を語り、ようやくゾウィルも理解したようだ。


「どういう風の吹き回しだ? ヤツが人間を信頼するなど考えられん」

「私を助けてくれたからね、この人たちは」

「っ! そういうことか……」


 言い終えた瞬間、ゾウィルの全身から闘気がなくなる。

 襲いかかってくる素振りも見せず、落ち着いたようだ。


「アルベロスはともかく、パーディが信頼するとなったら話は別だ」

「どういう意味だ、ぞれは」

「おまえはお人好しだからな」


 モンスターなのにお人好しとはって思ったけど……まあ、この際、細かいことにツッコミを入れるのはよそう。

 ともかく、ゾウィルとは冷静な話し合いができそうでひと安心だ。


「まったく……これだけ苦労をしておいて、最後はホミルに持っていかれたか」

「でも、うまく話ができそうでよかったです」


 アルに救出されたリリアンが言う通り、これでようやくまともな会話ができそうだ。

 俺たちがゆっくりゾウィルに近づいていくと、彼の口から思わぬ言葉が飛びだした。


「……ここ数日の間に、魔境近くで多くの人間の気配を感じたが……おまえたちのものではないようだな」

「えっ?」


 多くの人間の気配。

 それは恐らく、この魔境に暮らす者たち――と、最初は思っていたが、魔境近くということは外になるのか。

 そうなってくると話は別だ。

 同時に、脳裏をよぎったのはエクルド王国からこちらへ戻ってくる際に確認された所属不明の兵士たちの存在。


「まさか……彼らの狙いはこの魔境なのか?」


 だとしたら、なぜそんな遠回りな方法を取るのか。

 周囲に兵を配置するなんて、まるでこの魔境周辺を見張っているようにも思える。


「一体何のために……」


 謎の勢力が魔境を狙う目的とは――今後はその点について注視していかなくてはならないだろう。

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