第54話 助っ人

 大蛇ゾウィル……やはり、一筋縄ではいかない相手だった。

 アルの協力もあってなんとか渡り合えているが、このままだとやられるのは時間の問題だ。

 それまでに、なんとしても突破口を見出さなくては。


「どうする、エルカ」

「このまま引き下がるわけには……」


 どうにかしたいという気持ちばかりが焦り、肝心の対応策がまったく浮かんでこない。早くしなければ、体力が尽きてゾウィルに捕まってしまう。


「何度やっても無駄だ。俺は人間になどなびかない」


 淡々とした口調で語るゾウィル。

 確かに、アルの手助けがなければとっくにヤツの胃袋の中だ。


「エ、エルカ様……」


 リリアンの口から漏れたのは、これまでに聞いたことのない弱々しい声だった。数々の戦場を駆けてきた彼女でさえ、大蛇ゾウィルの前ではここまで弱気になってしまうものなのか。

 だが、それも納得してしまうくらいの実力がゾウィルにはあった。

 

「くっ……」


 脳裏をよぎる、「撤退」の二文字。

 これ以上の無茶は命を落とすかもしれない――そう思った直後、


「きゃっ!?」


 ゾウィルの素早い攻撃をかわした直後、リリアンは足を滑らせてまたしても落下していく。


「リリアン!」


 俺は助けようと木の枝から身を乗り出す――が、それを見越してゾウィルが迫ってきた。


「やめろ!」


 絶体絶命のピンチだったが、ここでもアルに助けられる。

 しかし、その際にアルの体へ毒液が付着してしまい、動きが一気に悪くなってしまった。

 これではさっきのようにリリアンを助けにはいけないだろう。


 だったら……俺がやるしかない。

 ゾウィルの気がアルへと向けられているうちに、俺はリリアンを救いだそうと動きだす――が、俺はアルのようなスピードがあるわけじゃない。最初に落ちた時よりも高さはないし、下は沼地となっているので身体的なダメージ自体は少ないだろう。


 だが、底なし沼からの救出となると話は別だ。

 俺はリリアンを追いながら、どうやって救出すべきか考えを巡らせる――と、


「任せて!」


 どこからともなく声がした。

 つい最近、どこかで聞いたような女の子の声。

 これは……


「ホミル!?」

「どうも。なかなか厄介な事態になっているみたいだね」


 現れたのは、ヌシに名を連ねる毒蜘蛛パーディの娘ホミルであった。彼女はリリアンの落下地点に強力な糸を張り巡らせて沼の部分を覆い、落下による心配を防いでいたのだ。

 ただ、リリアンは気を失っているようで、何の反応も見せない。

 あの状況では無理もないか。


「ありがとう……一時はどうなることかと」

「安心するのはまだ早いよ」


 そうだった。

 まだ大蛇ゾウィルとの交渉は続いている。

 ここから気合を入れ直さなくちゃな。

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