第57話【幕間】動きだす陰謀
この日、ノイアー神父はスレイトンに呼びだされ、商会の代表者であるオーガンが経営する宿屋の地下室を訪れた。
そこで、彼は驚くべき情報を告げられる。
「戦争……ですか?」
「まだハッキリとそう決まったわけではありませんが……城内で不穏な動きが見られます」
スレイトンの言葉を耳にしたノイアーは頭を抱えた。
なぜ?
どうしてそのような判断に至ったのか――裏で糸を引く存在に、ノイアーは心当たりがあった。
「まさか……指示を出しているのはタイラス王子?」
「もし、城内での動きが私の予想通りだとしたら、その可能性は極めて高いと思われます」
「なんということだ……」
聖女カタリナの神託により、予言者エルカ・マクフェイルが魔境へと追放されたその日からもっとも恐れていた最悪のシナリオへ、この国は着実に進んでいる。ノイアーはスレイトンからの情報でそれを確信していた。
だが、スレイトンはまだ仮定の話だと前置きしている。
あきらめるには早いとも言えるが、それは望み薄だろうとも考えていた。
「スレイトン殿……仮に、グロームが戦争を仕掛けるというなら、相手国はどこになると思われますか?」
「傾いている国の経済を立て直すには、相応の見返りがなければいけない。遠征する距離も考慮すれば、もっともあり得る国は――エクルド王国」
「エクルド王国……」
そこには鉱山がある。
魔鉱石のような希少鉱石ではないものの、手に入れることができれば経済は大きく潤うこととなるだろう。
「神託によって生じた負債を侵略によって補填しようなどと……」
「あまりにも短絡的で非常識――これが実現し、表沙汰になれば、この国はいよいよ終わりを迎える」
スレイトンの言葉に、ノイアーは背筋が凍る。
これまで何度も、この国は消滅の危機に立たされた。
そのたびに、エルカの予言で回避してきたが――今回はそのエルカがいない。
本来ならば、エルカに変わって聖女カタリナが神託によって国を救う立場となるはずだったが、彼女の神託はことごとく外れ、国に大きな損害を与えている。
このままでは、聖女の力を国民に示し、予言者エルカを魔境へと追いやった張本人であるタイラス王子に批判が集中する。今回の戦争は、その批判をそらすために起こされるのだ。
「エクルド王国としてはたまったものではないですな」
「まったくもってその通りです」
ふたりは項垂れながら、今後の対策を協議する。
とはいえ、国政への影響力が低いふたりではどんなに名案を並べてもそれが採用される見込みはゼロと言っていい。
となれば――
「情報の確たる証拠を掴み、然るべき対応を取ります」
「それしかないようですな」
ノイアーはスレイトンの提案をのみ、協議は終了。
それぞれの立場から真実へと近づき――エクルド王国へ情報を明け渡すことで話はまとまった。
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