第48話 エクルド鉱山の秘密

 エクルド王は、想像していたよりもずっと若かった。

 その威厳たっぷりな声色と調子から、最初は五、六十代くらいなのかと思っていたが、顔をよく見ると三十代くらいに見える。


「ふふふ、想像よりも若い王だと思ったか?」

「えっ!?」


 こちらの考えを当てられて動揺するが、エクルド王はそんな俺の様子を見て小さく笑った。


「ははは、これは予言ではないよ。――よく言われるものでね」


 少し表情が暗くなったエクルド王。

 恐らく、「こんなに若い人が国王なのか」と思われることをよくは思っていないのかもしれない。

 強張った顔つきになる俺たちを尻目に、エクルド王はマイペースに話を進めていく。


「報告は受けている。町での騒動を解決してくれたそうだな」

「いえ、理不尽に絡まれて困っている方がいたので、放っておけなくて」

「その心意気に、国王として感謝する」


 エクルド王は俺に向かってペコリと頭を下げた。

 一国の王がそのような態度を取ることに、俺だけじゃなくリリアンやイベーラたちも驚いていた。

 ゆっくりと顔を上げるエクルド王――その表情は先ほどまでと違い、引き締まって眼光も鋭さが増している。その気配から、俺はここからが本題なのだろうと背筋を伸ばした。


「今回、君たちにこの城へ来てもらったのは、王都でのトラブルを解決してもらった礼を言う他に理由がある」

「何か……ありましたか?」


 考えられる可能性としては――俺の予言だ。

 国王の狙いはやはりそこにあるようで、こちらが言い終えるとニコリと微笑む。


「察しが早くて助かる。実は少々困った問題があってな」


 そう語った国王の表情から、相当厄介な事態が発生していることが分かる。

 俺としては、今後の関係性を考慮して解決したいのだが……内容にもよるだろうな。俺が予言できるものとしては、【ホーリー・ナイト・フロンティア】で発生するイベントがメインになる。

 もちろん、それ以外にもゲーム内で設定されていたものであれば予言として回避方法を助言できるのだが……果たして。

 俺は息をのみ、国王の次の言葉を待った。

 すると、


「エクルド鉱山はもう見たかな?」

「えぇ。ここへ到着したのは昨日の夜だったので、朝になって全貌を確認できました」


 ここでわざわざエクルド鉱山を出したということは……お願いというのもそれにかかわるものか。


「実は最近、あの山で採掘できる鉱石の量が減少して来てね。掘る場所を変えようといくつか候補を検討しているのだが……それについて、君から何かアドバイスをもらえないかと思ってね」

「なるほど……」

 

 鉱石の採掘場所、か。

 ……まずい。

 これは俺の予言の及ばない内容かもしれない。


――ただ、あのエクルド鉱山を見た時から、何か違和感を覚えていたのも事実だった。

エクルド鉱山は、【ホーリー・ナイト・フロンティア】のマップ上にも存在している。何度か画面越しにその場所をチェックした記憶もあるのだが……なんか、違うんだよな。


「あの、すいません」

「なんだ?」

「地図を見せてほしいんです。エクルド鉱山の」

「ふむ、分かった」


 国王がスッと手をあげると、フェイディさんが俺たちの前までやってくる。


「こちらをどうぞ」


 フェイディさんはいつの間にやら手にしていた一枚の紙を俺に手渡す。それこそがエクルド鉱山周辺の地図であった。


「それではちょっと失礼して……」


 俺は違和感の正体を見極めるため、地図を食い入るように見つめる。その行動に触発されたのか、リリアンやイベーラ、さらには他のメンバーまでもが必死になって地図へと視線を向けている。


「うーん……」


 穴が開きそうなほど凝視するも、俺は違和感の正体を掴めずにいた。それでも、やっぱりこの地図はどこかおかしい。なんだか、俺がゲームで見ていたエクルド鉱山とは、何かが違う気がするのだ。

 悩んでいると、背後から声が聞こえた。


「お、おい、押すなって」

「しょうがないでしょ、よく見えないんだから」


 地図を見ようとするリドウィン調査団の男女が体を押し合い、その衝撃で全員が一斉に倒れ込んだ。


「も、申し訳ありません!」

「お怪我はありませんか!」


 店頭の原因となった男女が、慌てて謝罪の言葉を口にする。


「いえ、大丈夫ですよ。――でも、今後は気をつけてください」

「「はい……」」


 イベーラから軽めのお説教を食らい、猛省するふたり。彼女の立場を考えると、もし怪我でもしていたら大問題になりかねない――が、イベーラの性格からして、その辺は軽く流しそうだけど。


 とりあえず、何事もなかったようなので地図を見ようとしたら、


「ありゃ?」


 どうやら、さっきの衝撃で手放してしまったらしい。

 足元に落ちていた地図を拾おうと手を伸ばした――その時だった。


「あぁっ!?」


 俺は思わず叫んでしまう。

 結果、その場にいた全員の視線をかっさらうこととなった。


「何か分かったんですか、エルカ殿!」


 慌てて駆け寄るリリアンに、俺は笑みを浮かべながら答えた。


「……分かったよ、リリアン」

「わ、分かったというと?」

「エクルド鉱山の秘密がだよ」


 俺がそのひと言を放つと、場は騒然となった。

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