第49話 隠されていた真実
床に落ちた、エクルド鉱山の位置を示す地図。
それを手にしようとした時、地図は普通に見る時とは上下が逆転していた――つまり、北と南がそのまま入れ替わった状態で落ちていたのだ。
位置が逆さまになった地図を見て、ずっと抱いていた違和感の正体に気づく。
――そう。
俺が【ホーリー・ナイト・フロンティア】の製作陣からエクルド王国の地図を見せられた時と地図では北と南の位置が違っていたのだ。
フェイディさんからもらった地図によると、南に王都があって、北に鉱山があるという配置になっている。これ自体はゲームの設定と同じなのだが、南が地図の上に描かれ、北が下に描かれている――この位置が、ゲーム上のマップと違っているのだ。
つまり、ゲームと同じようにマップを見るためには、地図を逆さまにして読む必要があるのだ。
「これなら……」
早速、拾った地図を逆さまにしてもう一度じっくりチェックする。
「エ、エルカ殿? 地図が逆ですが……」
「問題ありません。むしろ、こっちの方が俺にとって正解です」
冷静にツッコミを入れてくれたフェイディさんには悪いけど、今言った通り、俺からするとこの見方でなければ正しく情報を引きだせないのだ。
――それにより、新たな情報が発覚した。
「む? これは……」
現在、エクルド王国が採掘を進めている場所と、ゲーム内で表示されている採掘場の位置が違っている。
確か、ゲームでは今よりも少し未来が舞台となっているはず。
ということは、【ホーリー・ナイト・フロンティア】の世界では、新しい鉱脈を発見したあとのマップということになる。
……だったら、
「エクルド王様」
「どうした? 何か分かったのか?」
「はい。現在の採掘場から南西に進んだ場所――具体的には、この辺りを掘ってみてください。私の予言によれば、この位置が新しい採掘場所にピッタリかと」
「よ、よし! では早速そのように鉱山長へ伝えよう!」
国王陛下はすぐさま手近な兵士へ声をかけると、今俺の言った内容を鉱山の責任者へ伝えるために走りだした。
「それにしても……随分と具体的な位置まで分かるのですね」
「エルカ様はいつもそうですよ。回りくどかったり、ぼんやりとした表現はせず、的確にいつどこで何が起きるかを言い当ててしまうのです」
「なるほど……まさに未来を視る神の双眸ですね」
リリアンの言葉を受けて、フェイディさんは大袈裟に俺をたとえた。
今の予言も、俺がゲームの開発者の一員であるからこそ分かった知識だし、実際その通りになるとは限らない。
念のため、国王陛下にはそのことも伝えておいたが、俺がグローム王国でハズレなしという情報も掴んでいたらしく、「そうはなるまい」となぜか俺以上に自信を持っていた。
予言も終わったことだし、俺たちはそろそろ魔境村へと帰還しようと城を出ようとする。
「では、国王陛下……我々は魔境へと戻ります」
「うむ。鉱石採掘の件が成功したあかつきには、使者を送って報酬を与える。それから……諸君らとはこれからも友好的な間柄でいたいものだ」
「それはこちらも願っています」
エクルド王に対して好感触を得た俺は、そう言って笑顔のまま頭を下げた。
リドウィン王国に続いて、エクルド王国とも良好な関係を築ければ、今後の村の運営に大きなプラスとなるだろう。
「では、近くまで兵に送らせよう」
国王は俺たちが魔境への帰路へ着くまでの間に、兵を護衛につけてくれるという。しかし、道中そこまで危ない箇所はなかったと思うのだが――どうやらこれには理由があるらしい。
「実は、先週あたりからこの近辺に所属不明の兵士を目撃したという報告が上がってきているのだ」
「所属不明の兵士?」
それはまた……なんとも不気味な話だな。
もしかしたら、このエクルドへ攻め入ろうとしているどこかの国の斥候兵?
しかし、ゲーム内ではそのような情報などなかった。
あっちは未来の話だから、もう戦いは終わって語られなかっただけという設定もなくはないが……少し考えすぎかもしれない。
そういった事態から、エクルド王は防衛という意味と、魔境の位置を正確に把握しておきたいというふたつの目的から、俺たちに兵をつけると提案してくれた。
これに対し、俺はお言葉に甘えようと判断する。
出発までに少し時間を要するものの、そうした方が安全だろう。
何かあってからでは遅いからな。
それからおよそ一時間後。
兵たちの準備も整ったということで、俺たちはエクルド王国を発つ。
正直、午前中にするつもりだった王都の視察はほとんどできなかったため、近いうちに改めてお邪魔しようと考えている。
あとは……やっぱり、国王の言っていた、謎の兵力に関してか。
大事には至らないと思うものの、俺を追放したグローム王国のことが、どうにも頭から離れなかった。
まさか、連中が何か動いているのではないか。
いずれにせよ、俺の方でもいろいろと調べてみる必要はありそうだ。
とりあえず、明日は村の様子をチェックした後、まだ接触していないヌシについて考えるとするかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます