第44話 ギルドでの出会い

 エクルドの冒険者ギルド。

 せっかくなので、今後の参考までに中へと入ってみたのだが……たまらず足が止まる。

 そこにいたのは筋骨隆々とした屈強な強面の男たち。

 中には女性もいるのだが、どうしてもムキムキな彼らに目がいってしまう。


「す、凄い圧ですね……」


 騎士としてさまざまな戦場を駆け抜けてきたリリアンでさえ、経験豊富な冒険者たちの放つ独特のオーラにたじろいでいた。

 リリアンでさえこの状態なのだから、お嬢様であるイベーラはもっと大変なことになっているのではないかと心配していたが、


「これが冒険者……騎士や魔法使いとは雰囲気がまるで違いますね。こう、野生的というか」


 むしろ好奇心を刺激されて瞳の輝きが増していた。

 そんなお嬢様の視線に、周りの冒険者たちも気づいたようだ。


「お兄ちゃんたち、ここはデートには不釣り合いな場所だぜ?」


 近づいてきたスキンヘッドの冒険者がからかうように言うと、周りから失笑が起こる。完全にバカにされているな。


「お察しの通り、俺たちは冒険者じゃありません。今日はここのギルドを見学し、今後の参考にさせてもらおうと思って」

「見学ぅ? 参考ぉ? なんだよ、どっかで冒険者ギルドでも開こうとしているような言い方だなぁ」

「まあ、そんなところです」


 この人で、ギルド内の空気がガラッと変わった。

 俺みたいな若造が冒険者ギルドをつくろうとしている――ということは、まだ誰の目にも触れられていない未知のダンジョンがあるという事実につながる。


 冒険者にとって、これほど心をくすぐられる状況はないだろう。


「兄ちゃん……場所をよく考えな。ここでそいつぁ笑えねぇ冗談だ」

「本気ですよ、俺は」

「面白いじゃない」


 俺とスキンヘッドの冒険者が会話をしていると、近くにあったイスに腰かけていた冒険者がスッと立ち上がって近づいてくる。

 その冒険者は――若い女性だった。

 年齢は俺たちよりも上……二十代半ばほどか。

 燃え盛る炎のような赤い髪に鋭い眼光。額には十字の傷が確認できた。全身から醸しだすその気配……素人でも「只者じゃない」って分かる。


「ク、クロナ……」


 女性が近づくと、俺と話していた冒険者が一歩後退。あと、彼女はクロナという名前らしい。

 しかし……さっきまで話していた冒険者はどこか怯えたように見える。見た目の印象ではスキンヘッドの冒険者の方が強そうなのだが――距離が縮まるごとに、その理由が分かるようになった。


 クロナという女性冒険者……俺が予想していたよりもかなり強い。

 初めて会ったばかりなのに、それがヒシヒシと伝わるオーラを放っていた。


「それで? あんたの言うダンジョンってどんな場所なの?」

「えっ? あっ、えっと……魔境にあるダンジョンで――」

「「「「「魔境!?」」」」」


 さっきまでとはまた違った驚きが、ギルド内を包み込む。


「ま、魔境ってあの魔境か?」

「バカな。あんなところ、人が足を踏み入れる場所じゃねぇぞ」

「いろんな国が何度も入植しようと試みたようだが、失敗に終わったって話だ」

「それをあの若造たちが達成したっていうのか?」

「どうにも胡散臭いな」


 周りから漏れ聞こえる声によれば……誰も俺の話を信じていないようだ。

 まあ、冷静に考えたらそうだよな。

 周囲が言うように、魔境って場所は前々からよくない噂が囁かれ、それによりさまざまな憶測が飛び交っている。

 一応、他にもメンバーはいるわけだが、それでも少数だし、移住して来ている人たちのほとんどが非戦闘要員。それでも魔境でやっていけるのは、ひとえにアルとパーディのおかげでもあるな。

 たぶん、これまで入植しようとした国は、ヌシたちを排除しようと敵対行動をとってばかりいたのだろう。それではいつまで経っても魔境で安全に暮らしていくことはできない。


 ギルドにいる者たちは、そうした事情を知っているのだろう。

 大っぴらに公開された情報ではないが、人伝に広まっていったってところかな。


 疑いの眼差しを向けられる中、


「はっはっはっはっ!」


 クロナさんは豪快な笑い声でそうした空気を一蹴した。


「あんたの目は嘘をついていないようだし……本当に面白いねぇ。ますます興味が出てきたよ」


 どうやら、クロナさんに気に入られたようだけど、まだまだギルドもダンジョンの運営も未定の部分が多い。まだ人を招待するほどではないだろう。


「さっきの話を聞く限り、まだ準備中ってところかな」

「えぇ。でも、近いうちにオープンしたいと思っていて、いろいろと進めています」

「なら、頃合いを見計らってお邪魔しようかしら」

「はい。楽しみにしています」


 クロナさんが魔境にあるダンジョンに挑戦を表明したことで、周りの声も徐々に変わりつつあった。


「新しいダンジョンか……」

「本当に魔境にあるとしたら、これまで誰も足を踏み入れたことのない場所だ」


 魔境ダンジョンの評価は良化しつつあった。

 うちとしては、リドウィン王国へ届ける分の魔鉱石があれば、あとは基本的にフリーにしていきたいと思っている。冒険者が増えれば村に活気も出るしね。


 さて、そろそろ宿の手配も取れただろうし、ゴーテルさんたちに合流するとしよう。

 冒険者たちに別れを告げて、俺たちはギルドをあとにしたのだった。

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