第43話 エクルド王国

 新たに交渉する国として、俺たちはエクルド王国を選んだ。

 将来性抜群であり、尚且つ距離もそれほど離れていない。

 王家の人間がどのような性格をしているのかも把握しているし、何より、彼らの抱えている

「とある問題」の解決方法を俺は知っている。


 本来であれば、主人公とその一行が解決すべきことなのだが……今回はそれを俺たちでやろうってわけだ。

 手筈は頭に入っているので、あとは実際にエクルド王国へと足を運び、実行するのみ。

 人選に関しても、それを重視したものとなったが――唯一の例外はイベーラだった。


「私もぜひご一緒したいです」

「それは構わないけど……観光に行くわけじゃないぞ?」

「もちろん。貴族として、新しい土地をこの目で見たいというのは当然のことです」


 どうやら、知的好奇心が勝ったらしい。

 俺としても、イベーラには来てもらいたいと思っていたし、ちょうどいいな。あとは、合流した腕っぷしに自信のある冒険者を数人。ここの人選については、彼らのまとめ役を担っているゴーテルさんにお任せしていた。


 そのゴーテルさんからもメンバー選出が完了したという報告を受けたので、いよいよエクルド王国へ向けて出発することに。


 今回の旅は、視察という意味合いが強い。もちろん、やれるだけのことはやっていくつもりでいるけど、すべてを丸く収めることはできないだろうと踏んでいた。

 時間はかかるだろうけど、だからこそ信頼が生まれるというものだ。



 準備が整い、俺たちは魔境村をあとにした。

 メンバーは全員で十人。

 少数精鋭で、エクルド王国へと乗り込む。

 

「いい天気ですねぇ……まさに旅日和です」


 馬に乗り、のんびりと空を眺めるリリアン。そうしている姿を見ると、いつもの凛としている彼女とは違い、年相応の女性って感じがした。名うての騎士とは言っても、やっぱり女の子なんだな。


 一方、馬車に乗るイベーラのテンションも高かった。

 エクルド王国へはこれまで行ったことがないとのことで、新しい国をこの目で見られると楽しみにしているようだ。


 ちなみに、リドウィン組の中でエクルドへ行った者は誰もいないという。俺としてもゲームのグラフィックだけでしか見たことがないからなぁ……少なくとも、携わった部分に関しては大体ゲーム通りだから、その辺は心配いらないと思うけど。


「このペースで行けば……到着は今日の夜になりそうですな」

「了解です」


 ゴーテルさんから到着予定時間を聞き、大きく息を吐く。

 地図で見る限り、それほど離れていないと思っていたが……実際に移動するとなるとそれくらい時間がかかってしまうのか。


 まあ、急ぐ旅というわけでもないので、のんびり行くとするか。

 魔境村の警備については、アルに任せてある。

 それに、新しい味方のパーディもいるし。

 パーディ自身は、村の警備をお願いした際、「気が向いたらね」と言っていたけど、元気になった娘のホミルは「きっとやってくれるわ。それに……いざとなったら、私が守ってあげるから心配しないで」と言ってくれた。

 娘の方は素直でいい子なんだよなぁ……前々から人間の生活に興味があるって言っていたから、一度じっくり腰を据えて話をしてみたい。


 と、いうわけで、強力なふたり(+ひとり)の助っ人が加わってくれたことで魔境村の守りについては心配無用だろう。


 屋敷や村の拡張についても、すでに移住者たちを中心にして回っているし、もう任せても大丈夫なレベルで成長しつつある。きっと、エクルド王国から戻ってきたらまた大きな成長を見せてくれることだろう。

 あと、移住者も増えていることだろう。

 そっちも楽しみだな。



 のどかな移動の時間はゆっくりと過ぎていき――空が夕暮れに染まる頃。


「見えました。あそこがエクルド王国の王都です」


 馬に乗る俺たちの眼前に、目的地であるエクルド王国が姿を現した。

 王都に入るための特徴的なデザインのつり橋に、シンボルとされている大きな時計台。

――間違いない。

 ゲーム内で見たエクルド王都そのものだ。


 俺たちは早速馬を預けると、まずは宿探しへと向かう。

 これについてはゴーテルさんたちが手配してくれることになり、俺やイベーラ、リリアンはその間に町並みを見て回る。


「なかなか活気があるな」

「えぇ。リドウィンよりも上かも知れません」

「種族も多種にわたりますし、想定していたよりもずっと規模が大きいですね」


 口々に感想を言い合う――が、やはり共通しているのは「思っていたよりも大きい」という点だった。


 しかし……そんなエクルドも、ある問題を抱えている。

 あまりにも賑やかだからすっかり忘れていたのだが、それを解決しない限り今よりも発展することはあり得ないのだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、


「あれは……」


 俺の目に留まったひとつの建物。

 それは冒険者ギルドであった。


「どうかされましたか、エルカ様」

「いや、あそこに冒険者ギルドがあるなぁって」

「そういえば、魔境村にも作るという話がありましたね」


 そう。

 魔境村近くにもダンジョンが発見されたからな。これからギルドを作っていこうと動いてはいるのだが……今回はその件とは関係ない。


 まったく別の意味で、このギルドがエクルドとのつながりを深める大きなキーポイントとなるのだ。

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