第45話 宿屋でのひと時
待ち合わせ場所に戻ると、すでにゴーテルさんたちが待っていた。
「お待ちしていました。宿の用意はバッチリですが……ギルドの方はどうでしたか?」
「いろいろと収穫がありましたよ」
「それはよかった。では、詳しいお話は宿の食堂で」
どうやら、今日泊まる宿はリドウィン王都で世話になった宿と同じく、併設する食堂があるらしい。この世界ではこういったスタイルが一般的だ――って、そうなるように設定したのは開発者である俺自身なんだよな。
俺たちが宿屋を目指して合流した時には、すっかり夜も更けていた。
意外――と言ったら失礼なのだが、夜のエクルド王国はとても賑やかだった。朝市に人が集まるだろうという俺の予測は裏切られる。
それにしても、どうしてこんなに人が多いのか。
疑問に思っていると、視線の先にある物が。
夜の闇に薄っすらとその輪郭が見える……思い出した。あれは鉱山だ。エクルド王国にとって、貴重な財源となる、まさに宝の山である。
ただ、あの鉱山で採掘されるのは魔境のダンジョンにあるような魔鉱石とは違う。
価値としては魔鉱石の方が上だが、採掘量に関してはこっちの方が断然上だ。
――で、【ホーリー・ナイト・フロンティア】の主人公たちが解決するトラブルの舞台になるのも、あの鉱山だった。
「一度近くで見ておきたいが……さすがに難しいか」
国内でも重要なポジションとなっているエクルド鉱山に、部外者である俺たちが入れるわけがない。
まあ、内部のマップについては頭の中に叩き込んであるから、迷うことはないだろう。
「どうかしたんですか、エルカ様」
「いや、なんでもないよ。それより、今日の夕食が楽しみだ」
「私もです。もうお腹ペコペコで」
移動を優先した結果、昼間の食事は手軽に取れるサンドウィッチにしたからな。細身でありながら、意外とよく食べるリリアンには足りなかったのだろう。
ゴーテルさんが用意した宿屋では、部屋数の関係からふたり一組となって振り分けられることとなっていた。
基本的には男女で部屋を分ける。
リリアンとイベーラ同室で決定。
俺はゴーテルさんと同じ部屋で寝ることとなった。
ロビーで受付を済ませると早速食堂へと移動し、みんなにギルドで起きた件を話した。すると、
「クロナ……」
ゴーテルさんはクロナさんの名前を聞いた途端、食事の手を止める。
「知っているんですか?」
「面識はありません。ただ、冒険者時代にはよく聞きましたよ。パーティーへは所属しない、孤高の女冒険者――しかしその実力は相当なもので、大陸では五指に入るほどのレベルらしいです」
「そ、そんなに強かったんですね……」
スキンヘッドの冒険者が後ずさりした、明確な理由が分かった。
俺は彼女の放つオーラに気圧されていたが、あれは確かな実力に裏付けされたものだったようだ。
「それほどの実力者が魔境のダンジョンに興味を持ってくれるなんて……見たところ、かなりの手練れでした」
「それに、今日お話をしてみて、悪い人ではないという印象を受けました」
「私もイベーラ様と同じ意見ですね」
リリアンもイベーラも、クロナさんに対して好印象を抱いているみたいだ。
もちろん、俺もそうだ。
あのスキンヘッドの冒険者や、ギルドにいた人たちは恐れていたような印象を受けるものの、裏を返せばそれだけ彼女の実力を認めているということだ。
その後も、エクルド王国の第一印象を語り合いながら、明日の予定を話し合う。
と言っても、今回はあくまでも視察という名目。
午前中に町の様子を見て回りながらお土産を買っていき、魔境村へ到着するのが夜になる予定になっている。
念のため、魔境へ入ったらアルが迎えに来てくれることになっているので、モンスターの襲撃を心配する必要はないだろう。
一応、パーディにも声をかけてはあるのだが、彼女は素っ気ない態度だった。ただ、娘のホミル曰く、「こんな態度だけどピンチになったら絶対に駆けつけるから」だそう。いわゆるツンデレってヤツなのか。……そんな設定だった記憶はないんだけど。
ともかく、明日の予定も決まったことだし、今夜は長旅の疲れを取らないとな。
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