第31話 ドリトス家当主
俺からの予言を耳にしたラブレーさんは、ドリトス家の当主――つまり、イベーラの父親へと内容を伝えるため、屋敷へと戻っていった。
向こうからすれば、衝撃的な内容だからな……もしかしたら、信じてはもらえないかもしれない。それでも、これは間違いなくこれから起こる事実。
なんとしても、当主であるアルテム・ドリトス様には思いとどまってもらわないと。
「し、しかし、よく当主様の行き先が分かりましたね」
「例の予言ってヤツですよね?」
ラブレーさんを待っていると、後ろからゴーテルさんとディエニさんがそう尋ねてきた。
少しテンションが上がっているようにも見えるけど……気のせいか?
――と思っていたら、もっとテンションの上がっている人物が近くにいた。
「予言をこうして目の当たりにするのは初めてでしたか。これがエルカ様の予言――この未来を見通す力で、エルカ様はグローム王国の繁栄に貢献されたのです」
リリアンだった。
そういえば、俺の予言を誰よりも最初に信じてくれたのは彼女だったな。こうして古い付き合いになるのも、当然の流れかもしれない。
そんな話をしているうちに、ラブレーさんが戻ってきた。
返事は――
「旦那様は、エルカ様と直接お話をしたいそうです」
「分かりました」
ご指名をいただいたので、みんなをその場に待機させておき、俺ひとりでドリトス家の屋敷へと向かうことになった。
……あの屋敷には、イベーラもいるんだよな。
今、彼女は何を思っているのだろう。
念願だった魔境へと赴き、大量の魔鉱石を持ち帰ることができた。これから、あの魔境でのダンジョン探索に情熱を燃やそうとしていた矢先の禁止令――無念に決まっている。
彼女についても、ドリトス家当主――アルテム様と話をしたい。
ラブレー様に案内されて通された部屋。
そこは応接室で、すでにアルテム様が俺を待っていた。
「君がグロームの予言者か。噂は聞いている」
威厳ある口髭をたくわえた男性……この人が、ドリトス家当主のアルテム様か。双眸から放たれる鋭い眼光に射抜かれて、俺はその場から動けずにいた。
まさらに歴戦の猛者って風格だ。
貴族というより騎士とか武人に近いタイプだ。
俺はアルテム様に促されるまま、彼の座るソファの反対側へと腰を下ろす。
「早速だが……予言の件についてだが。詳細についてはラブレーから聞いた」
「では」
「シェーグル港への視察は取りやめる」
いともあっさりと、アルテム様は俺の予言を信用してくれた。
……でも、すんなりいきすぎじゃないか?
「あ、あの」
「君の予言が的確というのは重々承知している。……中堅国家だったグローム王国がわずか数年のうちに大国へと成長したその裏には、君の予言が大きくかかわっている、と」
「そこまで大袈裟な話じゃないですよ」
この国にも俺の予言の効果は伝わっている――それは国王陛下との会話からも知ることができたけど……アルテム様に言われると改めて実感するよ。
「君の予言がどれほど正確なものか、他国の者である私は知る由がない――が、正確でなければグロームの発展はなかったというのもまた事実。個々は従っておくのが無難だろう」
臨機応変というべきか。
とにかく、思いとどまってくれてよかった。
これで残る問題は――
「イベーラが気になるか?」
「えっ?」
こちらの考えを先読みされ、たまらず目を見開くほど驚く。
「一応言っておくが、これは予言でも何でもない。ただ、そうではないかという私の直感だ」
「……鋭いですね」
やっぱり……この人は只者じゃないな。
それと、アルテム様の顔つきを見る限り――あっちにとっても、イベーラの話が本題のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます