第19話 リドウィンを救う方法
リドウィンから来た調査団の面々は、グローム王国からの移住組とあっという間に打ち解けた。
もともと、グローム側からこちらへ移り住んできた人たちはみんないい人たちばかり。それに加えて、リドウィン組も穏やかで理知的だったから仲良くできたのだろう。
あと、どっちの大人もお酒が大好きというのも友好関係構築に大きく貢献した。俺は下戸なのでほとんど飲まないが、意外と大酒飲みが多く、ベロベロに酔っぱらいながら楽しそうに話し込んでいた。
ちなみに、ヴィッキーは俺と同じでまったく飲めないが、リリアンは普通に飲む。しかもかなりの酒豪らしく、以前聞いた話ではこれまで一度も酔ったことがなく、しかも二日酔いもないらしい。
本人曰く、「私の体は酒を飲むためにつくられたようなものです」とのことだが……そんな風に設定した覚えはない。まあ、リリアンは俺の担当じゃなかったけど。
一方、イベーラは年齢的にアウトらしい。
実は彼女、落ち着いた態度と大人びた風貌から勝手に二十代前半と思っていたのだが、実はまだ十五歳なのだという。
若さにも驚いたが、何より気になったのはその年齢で調査団のリーダーを任せられるほどの実力があるという点だった。
「その若さで調査団の代表とは、たいしたものですよ」
「いえ、私なんてエルカさんの足元にも及びませんよ」
謙遜するイベーラは、ひと口だけ果実ジュースを飲んでからその理由を語り始める。
「私……実家が貴族なんです」
「えっ? そ、そうだったんですか?」
年齢を聞いた時はタメ口でも大丈夫そうかなって思ったけど、貴族というなら話は別だ。おまけに、彼女はグローム王国とは別の国の貴族。下手をしたら国際問題になりかねないからなぁ……まあ、追放されてしまったのでグロームの民ではないのだけれど、今もあの国には世話になった人たちが残っている。彼らの迷惑になるような行為だけはしたくなかった。
そのうち、イベーラはリリアンやヴィッキーと一緒にダンスを始めた。
貴族である彼女ならば、社交の場で踊り慣れているはずだが、こういった場所でのダンスといえばそのようなかしこまったものではなく、流れてくる音楽に合わせて自然に体を動かす、言ってみればフィーリングが肝となる。
最初のうちは戸惑いを見せていたが、徐々にコツを掴んだらしく、軽快なステップを見せてみんなをうならせた。
宴会で楽しく盛り上がる様子を眺めながら、俺はリドウィン王国の助けになるような策はないかと脳内で模索していた。
イベーラたちリドウィン調査団の狙いは魔鉱石だった。
しかし、残念ながらこの【ホーリー・ナイト・フロンティア】内にある魔境で魔鉱石は採掘できない――そのように設定しようと企画会議で決定されたからだ。
本来ならばいくつかダンジョンを用意するプランもあったのだが、直近のイベントで新しく五ヵ所の新ダンジョンを開放したため、魔境の新ダンジョンはアニバーサリーまで延期されることとなったのだ。
「……待てよ」
確かに、ゲームの仕様上、この地にダンジョンはない――だが、いずれ導入するというプラン自体は存在していた。
こうした未確定の要素はどこまで反映されているものなのか。
たとえば、俺が滝の近くにある洞穴で見つけた竜玉の指輪もゲーム本編には登場しない。あれはあくまでも発見されたバグの一部だった。
しかし、現にこうして指輪は存在していた。
だとしたら、これから実装される予定だった新ダンジョンもすでに存在しているのではないだろうか。
もちろん、これは竜玉の指輪に比べると不確定要素が強すぎるため、そうならないという可能性の方が圧倒的に高いだろう。
だが、万が一ということもあり得る。
とりあえず、明日は朝からダンジョンを実装する予定だった場所に行ってみよう。もしそこにダンジョンがあるなら、きっとイベーラたちは大喜びするはずだ。
何せ、俺がこの世界へやってくる直前に、この魔境のアップデートに関する作業が行われていた。
テストプレイの段階では、どこに魔鉱石を設置しておくのがベストか試されるため、ありったけの数を周囲に埋め込んでおく。
もし……その頃の作業が残されたままだとしたら?
そう考えると、なんだか居ても立ってもいられなくなった。
「もしかしたら……これはとんでもない大発見になるんじゃないか?」
テストプレイの状態がキープされていれば、とんでもない鉱脈が眠っていることになるんだよなぁ……これは思いがけない収穫になりそうだ。
それに何より、リドウィンの人たちの助けになり得る。
可能性は低いが、試してみる価値は十分にある。
「エルカ様ぁ!」
次の目標が決まった直後、リリアンから大声で名前を呼ばれる。
「こっちへ来て一緒に踊りましょう!」
「そうしましょうよ!」
そこへイベーラも加わった。
最初にあった時に比べるとだいぶ表情が緩くなったな。ニコニコと屈託なく笑うその顔は年相応の女の子って感じだ。
……きっと、いろいろと抱え込んでいたんだろうな。それがこの宴会でプツンと切れたのだろう。まあ、今日くらいは好きに弾けたって問題ないはずだ。
「よぉし! ひとつ派手に踊ろうか!」
飛び入りという形で、俺も音楽の輪に加わった。
――できれば、この楽しい時間をこれからも過ごしていたい。
そのためにも、やれることには全力で取り組む。
明日からも。
これからも。
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