第18話 会談開始

 イベーラたちを招いて行われた会談。

 それ自体はとても順調に進んでいったのだが……浮き彫りとなったのは彼女たちの故郷であるリドウィン王国の厳しい現実だった。


 資源の乏しい小国リドウィン。

 産業も発展しきれておらず、経済面ではさまざまな課題を抱えている。

そういえば、【ホーリー・ナイト・フロンティア】でも、まったく同じ悩みを持っていたような……メインストーリーには絡まない国だから仕方がないって面もあるけど。


そう思うと……なんだか申し訳なく思えてきた。

開発中は特に気に留めていなかったが、こうして現実に困っているイベーラたちの姿を見ると、なんとかしてあげたくなる。

とはいえ、この魔境にはすでに多くの人々が移り住んでいた。

彼ら全員を引き連れて別の場所へ移住することは難しいだろう……そもそも、俺自身がこの魔境でやり残したことが多すぎる。


けど、彼女たちもなんとかしてあげたい。

そこで、俺はもう少し詳しい話を聞きだそうとイベーラに語りかける。


「君たちはこの魔境に何を求めてきたんだ?」

「一番の目的は……魔鉱石です」


 やはりそれだったか。

 魔鉱石があれば、国の経済的な事情は大きく変動する。この世界で大国と呼ばれている国はすべて魔鉱石の採掘が盛んに行われ、取引されているところばかりだ。

 明るい見通しのない自国の経済力に活力をもたらせようと、イベーラたちは危険を冒してもこの魔境へ足を踏み入れた――が、しかし、そんな彼女たちには辛い現実を話さなくてはならないな。


「イベーラ……とても言いにくいことではあるんだけど……この魔境ではあまり魔鉱石は採掘されないんだ」

「えっ!?」


 期待を裏切る事実に、イベーラだけでなく調査団の全員が驚きを隠せないでいた。

 ――そう。

 この魔境では、魔鉱石はほとんど採れない。だから、泉の水を復活させる際も、わざわざ王都から大量の魔鉱石を持ち込んだのだ。

 恐らく、この魔境に関するデマがまことしやかに囁かれ、それを鵜呑みにしてしまったのだろう。ただ、これについては判断が難しい。このゲームを作った俺ならばガセの情報と分かるのだが……イベーラたちでは真偽について正確に把握することは難しいだろう。


「そんな……」


 力なく項垂れるイベーラ。


「ほ、本当に魔鉱石はないのですか?」


 すがるように尋ねてきたのは、調査団最年長のゴーテルさんだった。


「はい。この魔境にはダンジョンらしいダンジョンも見当たりませんから、採掘できる可能性は極めて低いかと」


 変に希望を持たせても、厳しい現実に打ちのめされてしまう。最初からそれは無理だと分からせておいた方が、彼らのためでもあるだろう。

 だが、当然、「本当に魔鉱石はないのか?」という疑いの声も出てくる。

 証拠はない。

 俺の知識を予言という形で伝えているだけだからな。

 その予言の力をこれまで何度も目の当たりにしているリリアンやロバーツさんは間違いないと断言してくれたが、噂を知っていても実際に会うのは今日が初めてというリドウィン勢を納得させるには説得力に欠けていた。


「ならば、我らはなんのためにこの魔境へ……」


 ゴーテルさんの口調は静かだが……凄まじい悲壮感を漂わせている。

 彼らからすれば、この魔境が最後の砦だったわけだからな。


 俺としても、なんとかリドウィン王国のためにやれることはないだろうかと頭を働かせて考えた。

 魔鉱石は採掘できない――だったら、それ以外でリドウィン王国のためになるアイテムはないだろうか。

 俺は必死になってリドウィン王国に足りない物を考える。

 だが、考えたところで結論は出ない。

 というか、そもそも足りない部分だらけなのだ。

 大国と比較してしまうと、ちょっとやそっとのことじゃひっくり返らない歴然とした差があちらこちらに存在していた。


 なんとか、この差を埋める方法が魔鉱石以外でないものか。

 とりあえず、今日はこの村に泊まってもらうよう手筈を整え、みんなに歓迎会を開いてもらおう。

 その間、俺はリドウィン王国を救う手立てを考えておくか。

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