第15話 接触

 魔境で遭遇した国の名前はリドウィン王国。

【ホーリー・ナイト・フロンティア】の中では平和で穏やかな空気漂う小国で、王家の人たちも優しく、主人公たちの助けになってくる。


 そんなリドウィン王国が、この魔境を調査しにやってきていたとは……これは原作ゲームにはない動きだぞ。

 だが、話の通じない相手じゃない。

 それが分かっただけでも、よかったよ。


「エルカ様……ここは一旦退きますか?」


 リリアンに尋ねられて、ハッと我に返る。

 そうだった。

 俺としては魔境にやってきた者たちの正体に気づいているため、ホッと胸をなで下ろしているが、彼女たちからすれば未だに何者か分からない不気味さがある――なので、教えてあげることに。


「リリアン、それにヴィッキーも、あそこにいる人たちの着ている服にある紋章……見たことないか?」

「紋章ですか?」

「う、う~ん……私にはちょっと分からないですぅ」

「同じく」

「なら、リドウィン王国という名前に聞き覚えは?」

「「…………」」


 ふたりは無言のまま顔を見合わせる。

 どうやら、名前も聞いたことがないようだ。まあ、方角的にもグローム王国とは正反対に位置するし、距離も決して近いわけじゃない。知らないのは当たり前かもな。


 と、ここで意外な声が。


「リドウィン王国か……どこかで聞いたことがあるような」


 なんと、三つ目の魔犬アルベロスことアルが意外にもリドウィン王国について心当たりがあると言いだした。もともとは魔界で生まれ育ったアルが、なぜリドウィン王国を知っているのか……そこが気になった。


「アル、どこでリドウィンを知ったんだ?」

「いや……なんとなくどこかで聞いた気がするのだ」

「ひょっとして――他のモンスターからか?」

「そうだ」

 

 この魔境には、アルの他にも強くて知性のあるモンスターが数体存在する。原作である【ホーリー・ナイト・フロンティア】では、アルがボスを務める第二章以降にこの魔境を訪れると他のモンスターと会えるのだ。


 どうやら、そのモンスターの中にリドウィン王国を知っている者がいて、そこから情報を得たらしい。

 これから、俺が接触していかなくちゃいけないモンスターだな。

 アルはその中でも比較的おとなしいタイプだったからこうして一緒に行動できているが……他はこうもいかないだろう。その辺の対策もしっかり講じていかなければ。


 ――っと、また本題からずれてしまった。

 正体が分かったところで、俺がやることは……


「あそこにいる人たちと接触を試みる」

「っ! だ、大丈夫ですか?」

「安心してくれ。きっとうまくいくよ」


 不安そうなふたりと一匹にそう告げて、俺は茂みから出ていく。

 最初は俺をモンスターと勘違いして身構えるが、現れたのが普通の人間だと知ると少し安堵したような反応を見せる――が、すぐにここがどのような場所かを思い出し、再び顔が強張って手にしていた武器を構えた。


「な、何者だ!」


 先頭に立つ初老の男性が、勇ましく俺に言い放つ。 

 恐らく、彼がこのパーティーのリーダーなのだろう。

 とりあえず、敵意がないと伝えるため両手を上げつつ、彼らにゆっくりと接近してみる。


「あなたたちと敵対する意思はありません。どうか俺の話を聞いてください」

「…………」


 リドウィン王国の人たちは顔を見合わせた後、一斉に頷いて武器を下げた。


「見たところ、あなたもどこかの国の調査団に所属する兵士ですか?」


 最初に声を出した初老の男性の質問に対し、俺は首を横へ振った。


「俺はこの地へ追放されてやって来た者です。――でも、決して罪人というわけではありません」

「罪人でもないのにこの魔境へ?」


 今度は一番若いと思われる青い髪の青年兵士が尋ねてくる。


「はい。いわゆる神託というヤツです」

「し、神託……もしや、君はグローム王国の?」

「えぇ。かつてグローム王国では予言者と呼ばれていた、エルカ・マクフェイルと言います」

「よ、予言者!?」


 どうやら、リドウィン王国にも俺の噂は届いていたようだ――と、ざわつく調査団のメンバーから、ひとりの女性が俺の前までやってきた。

 透き通るような肌に浅黄色の瞳。

 オレンジ色をした長い髪をポニーテールでまとめた彼女は、その外見から恐らく二十代前半と思われる。


「私の名前はイベーラ。リドウィン王国調査団のリーダーを務める者です。あなたのお話をもっと詳しく聞きたいのですが……よろしいですか?」

「もちろん」


 調査団のリーダーだという女性――イベーラ。

 果たして、彼女からどのような話が聞けるだろうか。

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