第10話 忘れられたお宝

 三つ目の魔犬アルベロスが新たに加わった翌朝。

 開拓の拠点となる村で生活を始めた人々とアルベロスは、あっという間に打ち解けることができた。

 さらに、移住してきた人々の話によると……王都には彼らのように、こちらへ移住を希望者は今後増え続けるだろうという。

 どうやら、今回の聖女カタリナの振る舞いに疑問を抱いている者が多く、このままグローム王国に居続けていいのか、悩み始めているらしい。


「今後人が増えるとなると……もっと開拓村の範囲を増やしておくべきかな」

「職人の数は足りていますから、あとは家屋を補強したり、新しく建てたりする際に使用する材木を調達できれば」


 そう付け足したのは、今や有能秘書のポジションとなっているリリアン。

 さらにその横にはドジっ子メイドのヴィッキーがニコニコと笑みを浮かべていた。


「楽しそうだね、ヴィッキー」

「そ、そうですか?」


 本人に自覚はないようだ。

 ただ、心当たりはあったらしい。


「私がというより……エルカ様が王都にいた頃と比べて、とてもハツラツとしているようなので、こっちもなんだかつられて楽しくなってしまって」

「俺が?」


 ハツラツ、か。

 こっちでの生活は、王都での生活と違って一からいろいろと準備をしていかなくてはいけない。

そもそも、屋敷だって完全に修繕できたわけではない。

一応、集まってくれた職人たちが総力を挙げて直してくれるということになったので、数日以内には元通りとなる見込みだ。


 そうなると、次に俺がやることといえば……この魔境に眠るお宝の回収だ。


「エルカ様? どうかされましたか?」

「いや……今日はある物を探しにいこうと思ってね」

「「ある物?」」


 リリアンとヴィッキーが顔を見合わせる。

 魔境に眠るお宝――それは、この世界に来た時から目をつけていた物だった。予言者って立場になり、自由が利かなくなったため遅くなってしまったが……というか、まさか追放先がこの魔境だったなんてなぁ。これも何かの運命だろう。


 アルベロスをはじめとする、強力なモンスターと友好関係を結ぶ――それが、この魔境で生きていくために必要な要素のひとつ。

 だが、それだけじゃダメだ。

 まだ欠かせないキーアイテムが、ここに眠っている。

 しかも……本来ならあり得ない理由で。


 ただ、俺たちだけでその場所を目指すのは危険だ。

 そこで、強力な助っ人に声をかけてみる。


 それはもちろん――


「何? 森への同行?」


 そのもふもふぶりから、すでに移住者の連れてきていた子どもたちに懐かれまくっている三つ目の魔犬アルベロスだ。


「ちょっと気になっているところがあるんで、そこまで行きたいんだけど……獰猛なモンスターに襲われるかもしれないし」

「得意の予言というヤツか」

「まあ、そんなところかな」

「分かった。ついていこう」


 アルベロスはすぐに了承してくれた。



 ――ちなみに、アルベロスは子どもたちから「アル」と呼ばれていた。名前が長いので、呼びやすいようにその名をつけたという。

 アルベロス自身もそれを気に入っているようだったので、俺たちも今後は「アル」と呼ぶことにした。

 こうして、頼もしい味方とともに、俺たちは今日も魔境へと挑む。

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