第3話 魔境へようこそ

 ついにたどり着いた魔境。

 このステージ……俺はもう何度も見てきたのだが、こうして自分自身で見て回れるというのは感激だな。

 ――っと、いつまでも浮かれているわけにはいかない。

 ここはゲームの世界ではあるが、今の俺にとっては間違いなく現実なのだ。

 油断しているとモンスターに襲われ、あっさり命を落とす危険性もある。それを肝に銘じておかなければならない。


 だが、魔境にはそうしたマイナス要素ばかりじゃない。

 うまくいけば、ここを楽園に変えることだってできるのだ。


「地図によれば、この先に小さな村があるはずです。――もっとも、現在は誰も住んでいないようですが」


 城から調達した地図を片手に、リリアンが先導してくれる。

 村、か。

 この地へは各国が何度も入植を試みたらしいが、結局どこも途中で断念している。

 まあ、そうなっても仕方ない事情がこの魔境には潜んでいるんだけど――というか、潜ませたのは俺自身なんだけどね。


 そういったわけで、当時の知識がそのままここでの生活に生かされる。

 とにかく、まずは地図に示された村のある場所へとやってきたが、


「おう……」


 そこには確かに村と思われる場所があった。

 目に入るだけで八つの家屋が確認でき、その奥にはひと際大きな屋敷がある。


 ――が、案の定、どの建物もボロボロで崩壊寸前だった。


「こ、これを修繕するのはだいぶ骨ですねぇ……」

「あ、あぁ……」


 ヴィッキーと俺は開いた口がふさがらない状態だった。

 奥にある屋敷は特にひどく、これは専門の職人の力を借りなければならないだろう。


「まいったなぁ……職人を雇うにしても、資金が全然足りないぞ」


 これほどの規模の屋敷を修繕するとなったら、大規模な作業が必要となる。そうなると、職人さんを頼む数も増える。つまり費用がかさばるというループに陥るのだ。


 俺が頭を悩ませていると、リリアンがいつもの調子で話し始める。


「それについては問題ないかと」

「へっ?」

「このような事態は想定しておりましたし……何より、彼らは自ら望んで参加するつもりでいますから」

「? さっきから何を言って――」


 そこで、ハッと気がついた。

 もしかして……この地を目指しているのはこの場にいる者たちだけではないのか?


「な、なあ、リリアン? さっき言ったことってどういう意味なんだ?」

「? そのままの意味ですが?」


 表情は変えないまま、首だけをカクンと傾げながら言い放つ。

 ……なんだろう。

 この先を聞くのが怖くなってきたよ。

それでも聞かなくちゃいけないんだけどさ。


「彼らと言ったけど……ひょっとして、この地を目指している者が君たちの他にもいるってことなのか?」

「何せ急なことでしたからね。おまけに場所があの魔境と来ている――彼らはきちんと準備を整え、万全の状態であなたのお力になりたいと考えているのです」


 やはりそうだったか。

 どれだけの規模なのかも尋ねてみたが、返ってきたのは「多すぎで具体的な数は分かりませんね」という信じがたい事実であった。


「……まあ、職人が加わってくれるというなら心強いんだけどね」


 あとは医者や農民がいてくれたら――って、そこまで他人を頼ってどうする。せっかくこうして自由に暮らせるようになったのだ。細かいことを考えるのはもうちょっとあとにするとしよう。


「よし。とりあえず屋敷の使用は職人の到着を待ってからにしよう」

「それではどうします?」

「民家の中から、比較的ダメージが軽微なものを選んでくれ」

「分かりました」


 家屋の方は倒壊の恐れがあるほどのボロさを感じない。もしかしたら、屋敷だけはもっと前から建てられていたのもしれないな。

 何せ、これまでいろんな国が何年にもわたって入植チャレンジをしてきたが失敗に終わっているのだ。以前の残り物(屋敷)をあとから来た者たちが再利用している可能性は十分にあると言っていい。


「エ、エルカ様! こっちの建物は入っても大丈夫そうですよ!」


 民家を調査していたヴィッキーが叫ぶ。

 早速みんなでその家に移動してより詳しく調べてみると――うん。これなら問題なく過ごせそうだ。

 ひと安心して中の様子をうかがうと、


「あっ……これはダメだ」


 床があちこち抜け落ちていて、とても住めたものじゃなかった。


「外観は問題なさそうに見えたんだがなぁ……」

「結局、どの家もダメでしたね」

「しょうがない。今日もテント生活になりそうだな」


 俺がそう口にするも、誰も落ち込んだ様子を見せない。ここへ来る前の生活がすっかり身にしみついてしまい、今さら驚きもしないようだ。というか、みんなめちゃくちゃ満喫していたからな。むしろそっちの方が楽しみとさえ思っているのかもしれない。


 ――さて、問題は明日からだ。


 今日のところはこれで休憩となるが……明日からはこの魔境内のある場所に行ってみたいと考えている。

 うまくいけば……そこには今後の俺の生活を左右する衝撃の出会いが待っているかもしれない。


 俺たちは長旅の疲れも癒えぬうちにテントと夕食づくりに勤しむことになった。

 さて、どうなることやら。





※次は15:00に更新予定!

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