第2話 転生先は開発に携わっていたゲーム世界でした

 温かく爽やかな風。

 どこまで続く青い空。

 なんだか、これからの新しい生活を祝福してくれているみたいだ。


「うーん……気持ちがいいな」


 馬車の屋根付き荷台に備えつけられた窓を開け、風を感じながら伸びをしながら言うと、


「た、旅立ちにはもってこいの日ですねぇ」

 

 緊張気味にそう言ったのは、俺の専属メイドを勤めてくれているヴィッキーだ。彼女もリリアン同様、俺がこの世界に来た頃からずっとお世話になっている。

 年齢は二十歳で、リリアンとは同い年。

 薄紫のロングヘア―に、お手本のようなメイド服を身にまとっている。リリアンが美人系なら、彼女は可愛い系といった印象を受けるな。

 ただ、ちょっと怖がりで、そのためか性格もリリアンに比べると控え目で大人しい。


 その他にも、俺の旅についてきてくれた人たちは総勢で十人。

 護衛騎士のリリアン。

 ヴィッキーを含む使用人が七人。

 あと、城の庭師をしていたロバーツ爺さんに、厨房を預かる主力料理人のひとりであるバーゲルトさんのふたり。

 これが十人の内訳だ。

 それぞれ俺が信頼を置ける人物であり、彼らもまた突然の追放に納得がいかず、着の身着のままついてきた。

 たったひとりで今後の生活を成立させていかなくてはならないかと思うと少なからず不安もあったが、こうして人が集まってくれてよかった。彼らのためにも、魔境を開拓して住みやすい環境を整えなくては。


「しかし、魔境はもう何十年と人が足を踏み入れておらず、詳細な情報がありません。以前入植を目指した者が住んでいた屋敷が健在という話でしたが、それもどこまで信じられるか」

「なければ野宿になりそうだな……」

「あ、雨風をしのげる洞穴でもあれば暮らしていけると思いますよ」

「そうですね。もっとも重要な食料については城から持ってきた物もありますが、現地調達もある程度は可能かと。野生動物はいるでしょうから肉は確保できますし、川が流れていれば魚も捕まえられます。あとは木の実、野草、キノコといったところでしょうか」

「た、たくましいな」

 

 これも騎士団のサバイバル演習で身につけた知識だろうか。実に頼もしいよ。

 


 魔境を目指す俺たちの旅は数日にわたった。

 一応、部屋に残してあったお金を持ってきているのだが、これはいざという時のためにとっておきたいと思い、基本的には野宿で過ごした。

 これが意外にもみんなに好評。

 騎士団に所属し、サバイバル経験豊富なリリアンがめちゃくちゃ頼りになった。彼女の存在は魔境での暮らしでも重要なポジションとなりそうだ。


「これもすべてはエルカ様のためです」


 相変わらず表情に変化は見られないが、喜んでいるのは十分伝わった。

 そんな調子で進むこと五日。

 ついに俺たちは目的地である魔境の手前まで来ていた。


「あそこにある森が、いわゆる魔境か」


 現在、どの国の領地でもないグレーゾーン。

 これだけの広大な土地でありながら、なぜどこの国も手を出さないのか――その詳細な理由については伏せられているが、どうもおっかないモンスターが潜んでいるらしい。


 ……まあ、この世界を創った製作者のひとりである俺には、その理由がよく分かる。

 この魔境は、【ホーリー・ナイト・フロンティア】本編第二章の舞台。

 確かに、ここで快適な暮らしをするには厄介な存在がいる――だが、逆にその存在を味方につければ、ここの生活が楽しくなること間違いなし。


「ここからは常に周りに気を配らねばなりませんぞ、エルカ様」

「腹が減ったらいつでもいってくだせぇ! すぐに飯の準備をしますんで!」

「了解だ。ふたりも気をつけてね」


 元冒険者であるロバーツ爺さんと元王室料理人のバーゲルト。

 それまでの立場を捨てて俺についてきてくれたふたりのためにも、魔境開拓は必ず成功させなくちゃな。


 気合も新たに、俺たちは魔境へと足を踏み入れた。




※次は12:00に投稿予定!

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