第42話 ただいま
鳴り響くブザー。それは彼女の物語が1つの終わりを迎えたという証。
「北川先輩!お疲れ様でした。」
「皆。私についてきてくれてありがとう。皆のお陰で全国の強豪と鎬を削ることを経験出来た。最後の大会は奇しくも全国を逃したけど、皆と全国を目指し練習に励んだ日々は私の財産だよ、ありがとう。これからの中京大女子バスケ部を頼んだよ!」
「はい!!」
(10年間ありがとう。私の青春・・・・・)
「よぉ北川!」
懐かしのお店で待ち合わせをする美波。
「ゴメンな東条。忙しいのに」
「な~に。頑張ったお前を労いたいって話を持ち掛けたのは、こっちだぜ?気にすんなよ」
「ありがとう。・・・・・ここは変わってないな」
「あぁ、あの頃のままだ。流石にあの当時の活気はないけどな」
「そういうこと言うなよな~空気壊れるじゃんか~」
「わりーわりー。最後に皆で集まったのいつだっけ?」
「高校の卒業式の前日が最後かな」
「元気にしてっかな〜」
「沙織は国家試験受けるって言ってたな」
「流石おじょ………西宮の姉御。エリート街道まっしぐらか〜」
「結局。沙織の呼び方そのままだな東条」
「なんか、ふざけて呼び合ってたはずなのに、いつの間にかあの関係がしっくりきちゃったんだよね」
「アハハハ………。東条さ、あいつの近況なんか聞いてる?」
「うん?あぁ〜。最近はカンボジアの写真が送られてきたな」
「…………。」
「あれから2年か。あいつ半年だとか言いながら結局一度も帰国してねーもんな〜。たまに連絡をしてみれば留学先からイギリス行ったり、ブラジルやらトルコやらケニアやら………あっちこっち飛び回ってるみたいだな」
「カンボジアから帰ったら、スイスに行ってるみたい」
「かぁ〜あいつ留学という名目の旅行でもしてるのか〜。というか北川!やっぱりお前の方が近況知ってるんじゃんか」
「そうみたいだな」
「ったくそんなに連絡取り合うなら年に1回や2回帰ってこればいいのによー琢磨のヤツ」
「連絡取り合うって言ってもいつも私から送って琢磨が近況を知らせてくれるだけだけどな」
「………寂しくないのか?そんな感じのままで」
「そりゃあ寂しくないって言ったら嘘になるけど、それ以上に色んな経験をして来た琢磨がどんな魅力的な姿になっているか。そっちを想像する方が楽しみなんだ。」
「ふ〜ん」
東条は、ニヤつき意地悪く返答する。
「惚気ですな〜」
「!?バカそんなんじゃねーよ」
「ハッハッハッ!そう照れ隠しするなよ、2人の関係を知らない仲じゃないんだし」
「東条〜〜〜」
「わかったわかった。はいこの話はおしまい。」
「ったく自分に都合悪くなると調子いいんだから」
「アドリブが上手いんだよ。それより北川は就職決まってるのか?」
「う〜ん。1年はフリーターかな?幸い高校のバスケ部顧問からコーチのオファーもらってるから1年間はそれとバイトで凌ぐかな。バスケに打ち込み過ぎたよ」
「お疲れさんだな。最後の大会は惜しくもだったけど」
「私に出来ることはやりきったから悔しいけど、悔いはないよ」
「そうか、なら良かった」
「東条の方は順調なのか?」
「ようやく社長って肩書にも慣れたって感じだな、どう会社を大きくするか………今の課題はそれだな」
「そっか、大変そうだな」
「案外楽しんでるんだぜ?確かに受験の逃げ道として選んだ親の家業だけど」
「何事もポジティブに楽しめる………そういうとこ東条を見習いたいよ」
「いやぁ〜、あまり参考にしない方がいいぞ?何も考えてない阿呆に見えちまうし」
「確かに」
「おい!そこは同意すんな」
「フフフ」
「アハハハ………っとそろそろお開きにしようか」
「何か用事か?」
「誘っておいて悪い。仕事で重要な案件についての連絡が来てた」
「そっか、それは急いだ方がいいな。ありがとうな東条。労ってくれて」
「おう!支払いしておくから。ゆっくりして思い出にでも浸ってな」
「ありがとう。お言葉に甘えてそうするよ」
大人な友人の背をじっと見送る美波。
(東条も大人になったな………私は大人の階段をちゃんと登れるてるのだろうか?琢磨に恥じない姿をしているのだろうか…………ニートでは無いとはいえ、定職に就いていない私を琢磨はどう見るのだろうか…………)
思い出に浸るつもりが、明日への不安に蝕まれる。そんな中机の上に置いた携帯から通知が1つ届く。
「優ちゃん…………えっ!?」
急いで席を立つと一目散にある場所へ向かった。
「久しぶりの日本。半年で帰るといいながらなんだかんだ2年…………美波怒ってるかな?」
大きな荷物を手に故郷の地に降り立つ琢磨。懐かしい景色を見ながらこれまで巡った様々な土地への想いを馳せる。
(まさか国際研究の一環とはいえ、こんなに国を転々と周ることになるとは思わなかったな。)
「スー………。スイスと比べると日本ってあまり空気美味しくないな。さてと一番早い電車の時間は…………」
「琢磨!」
息を切らした美波が手を膝で支えながら立っていた。
「美波!なんでここにいるんだ!?」
「優ちゃんが……ハァハァ……連絡をくれたんだよ……なんで連絡くれないんだよ!?」
(優のヤツ余計なことして………)
「サプライズのつもりで帰ってきたんだよ。驚く美波の顔を見たくてさ」
「!?」
「てか、優に連絡してそんなに時間経ってないはずだけど、お前態々走ってきたのか?」
「当たり前だろ!?こっちは早く会いたいのにそっちから連絡こないし、半年で戻るって言ってたのに1年半オーバーしてるし」
「………ごめん」
「こっちは色んな事話したり、共有したかったのに連絡しても全然話し広がらないし」
「ごめん」
「相談に聞いて欲しかったことも、愚痴を聞いて欲しかったこともあった」
「ごめん」
一言発散する度握り拳を軽く琢磨の身体に当てる美波。琢磨はそれを黙って受け止める。
「おかえり。琢磨」
「ただいま。美波」
「前に進めたのか?」
「だから帰ってきた。」
「そうか。」
「皆元気か?」
「うん。東条とは今さっきまで思い出話ししてた。仕事も順調だっさ」
「そうか、それは良かった」
「沙織は国家試験受けるって」
「だいぶ、西宮に差をつけられたな〜」
「『ディベート同好会』今部員12人もいるらしいぞ」
「ちゃんと健在なのか『俺達の居場所』」
「うん。月子ちゃんは京大生なんだぞ」
「日笠のヤツ頭良かったもんな」
「美月先輩なんて最近Wリーグっていう日本のプロバスケリーグに所属するチームでプロデビューしたんだぞ!」
「そっか………凄いな」
「だろ?流石先輩だよ」
(おめでとう。みっちゃん………)
「お前はどうだ美波?」
「えっ!?」
「順調か?」
「……………」
「美波?」
「私は…………」
「…………焦るなよ」
「!?」
「人には人それぞれの道がある。だから美波のペースでゆっくりと進めばいい」
「でも!私………」
「俺はニートだぞ?」
「へっ?」
「当たり前だろ?あっちこっち飛び回って就活なんてしてる訳ないじゃんか」
「それはそうだけど………」
「何事にも全力で真っ直ぐ取り組むのが美波の良さだろ?そんなとこに………惚れてるんだから」
「琢磨…………」
「大丈夫。例え遠回りしたって美波なら、最良の未来に辿り着ける。」
「うん…………」
「聞かせてくれ。美波の2年間」
「……………そうだな〜どこから話そうか〜」
互いの手を固く繋ぎ、互いの空白の時間を埋めるように自分達の居場所へと帰って行った。
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