第40話 小さくて大きな約束

それは琢磨が9歳の時


「みっちゃん。まだかな」


ブランコを揺らしながら幼い琢磨は唯一信頼している幼馴染を待っていた。


「先生とお話って何話してるんだろう………」


(まだお約束の時間になってはいませんし、ゆっくり待ちましょ琢磨さん)


(時間勿体ないしさっさと帰ろうぜ琢磨)


(またアクさん!そんなこと言ってそれが今後の琢磨さんになんの益をもたらすのですか?)


(来るか来ないかわからんのに、待つだけ無駄だ。だったら琢磨は自分の為にやりたいことヤルべきだ)


(何故来ないと決めつけるのですか?あの娘は待っててと琢磨さんにそう告げたのです。必ず来ます!)


(その来るっていつなんだよ!俺達はもう30分くらい待ってるんじゃないのか?)


(そもそも待ち合わせの時間より10分程早く来てるんです。私達は)


(それでも20分は待ってるじゃないか!向こうから誘っておいて遅刻はどうなんだよ)


(それは…………)


「待つよ、みっちゃんは来る」


(琢磨さん………)


(待つって言ったって、家は目の前じゃないか。別にすぐに会えるんだし)


(約束を守ることに意義があるんです。これだから自己中心的な思考の悪魔は)


(なんだと!?その良いことすれば報われるみたいな天使の独善的な思考のおかげでこれまで琢磨がどんな不憫な目にあったか)


「うるさい」


(!?)


(すまん琢磨)


突然琢磨は立ち上がり歩き始めた。


(琢磨さんどうされました?)


(なんだ?待つの辞めた………って)


琢磨が立ち止まる。視線の先には複数の女の子が1人の女の子を囲んでいた。


(あれは………止めに行きましょう)


(はぁ、なんで知らない奴らの揉め事にわざわざ首突っ込むんだよ)


(1人に複数が寄ってたかってるんですよ?あれは異常です。止めないと)


(止めるにしても、女の揉めごと首突っ込むと後々後悔するのは琢磨だぞ)


(なんでそうなるんですか!?)


(見知らぬ女助けてヒーロー気取りだとか、その女好きなのかっておちょくられるのがオチだ)


(えらい!と琢磨さんの評価が上がる可能性の方が高いと思いますが?)


(それは大人の評価な、同級生の評価なんて今の琢磨の立場だとそうなる可能性の方が高いんだよ)


(だからって、あれをみすみす見過ごす訳には)


「……………」


(琢磨さんどうしたのですか?)


(おいおい琢磨)


「おっおじさん。それ貸してくれませんか?」


「うん?どうしたんだい坊や」


「……………」




「なんであんた私達についてくるのよ」


「だって、あなた達がついて来いって」


「はぁ〜?誰が貧乏くさいあんたについて来いって行ったのよ」


「…………」


「誰も言ってないじゃない。貧乏人で嘘つきって最低!」


「私、嘘ついてない」


「口答えしないで、根暗女」


「きゃあ」


女の子は押されて転ぶそれを見て嘲笑う女の子達


「やっ、やめなよ」


そこへ琢磨は声をかける。


「あんた………御使じゃないなによ?」


「1人に大勢で群がるのは良くない」


「はぁ〜?別に私達は仲良く遊んでるだけなんだけどねぇー?」


「…………」


「端から見てると全然そんなことないんだけど」


「なによ!ヒーロー気取り?やめた方がいいわよ御使。このこと言いふらしてクラスで一層居づらくなるのはあんたよ御使」


「そんなことはない」


カシャ


「ハッ?」


「これに君達の行いが納められてる。この写真を先生達に見せたら………」


「なっなによ!?それって脅しって言うんじゃないの?犯罪よ」


「君達の方が弱い者いじめって立派な犯罪だよ」


「ちょっと!撮らないで!!やめてよ」


「行こ!覚えてなさいよ御使」


「標的を僕にするつもりなら安心して、これ先生に見せるだけだから」


「〜〜〜ふん。ヒーロー気取りの男に助けられて良かったわね〜だ」


女の子達はその場を去る。


(琢磨さん………)


(なかなか大胆な事するのな)


「あの…·……ありがとう」


「別に気にしないで」


(確かに暗そうな女の子ですわね)


(貧乏くさいか………言いたいことはわかる)


「だからってあんなことしていい理由にはならないんだろ?」


(!?)


(!?)


「えっ?」


「ごっごめん。独り言」


「…………」


「坊や終わったかい?」


先程の男が琢磨達に近づく。


「あの、ありがとう。」


「偉いね坊や、誰も傷つけることなくあの場を治めてしまった。」


「おじさんがこれ貸してくれたから」


男から借りた物を返す琢磨。


「?本体とフィルムが別々?」


「おじさんの物にあんな場面の記録を残しておくのは申し訳ないと思って」


「………私にまで。ありがとう坊や」


琢磨の頭を撫でると男は2人に手を振りその場を立ち去った。


(あれはフェイクだったんですね)


(いや〜琢磨もズル賢くなったな)


(なっ!そんなことはありません。最善の選択を瞬時に実行したんです。貴方と一緒にしないでください!)


(なんだと!?)


「うるさい!」


(!?)


(!?)


「!!」


「ごっごめん。君にじゃなくて、………独り言」


「フフフ………」


暗い表情しかしていなかった女の子が初めて笑みを魅せる


「……………」


「面白い人ですね、君」


「……………」


「あの〜」


「君、笑った時の表情凄くいいね」


「!?」


「君の笑顔はきっと人を幸せにすることが出来るんだよ、だから常に笑顔でいなよ。一人でも多くの人にその笑顔を届けるんだ。そうしたら君はもっと明るく楽しく過ごせるんじゃないかな?」


「…………そうかな」


「うん。きっとそうだよ」


「君は凄いです。1人で複数の人に立ち向かって、誰も傷つけず解決してしまった」


「たまたまだよ、おじさんから借り物しなきゃ成立しなかったし」


「それでも見ず知らずの私を助けるなんて………そんな事出来る人がいると思わなかったです」


「多分別のクラスの子なんだよね?名前は?」


「私は………」


「たっくん〜。ごめんねお待たせー」


「みっちゃんだ!じゃあまたね」


「あっあの」


「僕は御使琢磨」


「御使琢磨さん。ありがとうございました。この事は決して忘れません」


「大袈裟だよ」


「もし、私が沢山の人を笑顔にすることが出来るようになったら。また会ってくれますか?」


「うん。その頃には僕ももっと学んで1人で今見たいな事が出来るようになるよ」


「約束してくれますか?」


「うん。約束」


小指を結び合う2人。


「たっくん〜。流石に帰っちゃったかな?」


「じゃあね」


「また、会いましょうたっ琢磨さん」


「うん」



ごめんみっちゃん


たっくん!ごめんね待ったよね


大丈夫だよ


「御使………琢磨さん」



「って話しなんだ」


「…………」


「その時、俺その子に自分の名前を伝えて、名前聞かなかったから名前知らなくて。あれから探したけど同じ学年にその子いなかったし。すっかり忘れてたんだけどさ」


「…………うん」


「前に西宮に似たような話しを聞いたんだ」


「沙織に?」


「うん。お前が笑顔で居続ける理由」


「あっ………あぁ………」


「あの時の女の子。北川だったんだな」


「!?」


「高校で同じクラスになって初対面でなんでコイツいきなり名前呼び捨てで馴れ馴れしいしなんだって思ったけど」


「琢磨………」


「やっと思い出せた。北川との約束」


「…………おせーんだよ、バーカ」


星が輝く暗闇の下で琢磨の背には雨まみれの太陽が一際輝いていた。


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