第36話 約束

ブ〜ブ〜ブ〜


「なんだ、こんな時間に」


年が開けてあもないとある日、普段鳴らない時間にバイブが鳴り通知を確認する琢磨。


「…………珍しいヤツからだな」



懐かしい店でその人を待つ琢磨。


「よお、こっちだ」


琢磨の声に反応し、席に座る女性。


「久しぶりだなってのと明けましておめでとう」


「えぇ、おめでとう」


「こっち帰ってたのか、西宮」


「流石に年末年始くらい帰るわ」


「どうだ?向こうでの1人暮らしは?」


「私の事はどうでもいいわ、その上辺ズラの会話も不要」


「なんだよいきなり」


「貴方どういうつもり?」


浮かれている琢磨に西宮の視線が突き刺さる。


「どういうつもりって、なんのことだよ」


「あんた。あの娘になにした?」


「・・・・・なにもしてない」


「ふざけないで!なにもしないで・・・・・・」


「何もしなかった結果が今なんだよ!」


「!?」


「俺が判断を誤った。自分の気持ちに気が付けなかった。いやその先に進むのが怖かった。あの頃の距離感が俺には心地よかったから。その結果が今だ」


「・・・・・・」


「お待たせしました。パンケーキ2つです・・・・」


その場の息苦しさに足早に立ち去る従業員。


「その様子だと、あいつに聞いたんだろ?ことの顛末を」


「えぇ」


「これが真相だ。満足か?」


「あんた達は揃いも揃って、ホント世話が焼けるわね」


「なに?」


「あんたならあの娘を任せられると思ってここを離れた私の信頼を返して欲しいくらいよ」


「・・・・・・」


「なんで、その後ちゃんと話さなかったのよ?」


「・・・・・避けられてる気がした。」


「その女性ってあんたとどんな関係なの?」


「聞いてないのか?幼馴染だ」


「そう」


「・・・・・」


「それ聞いたときあの娘動揺してるみたいだったから、確証を得たかっただけよ」


「動揺?」


「あんたの幼馴染の年上女性が自分の部活の先輩で、あんたが見たことない表情で笑ってるって、凄く心地よさそうだって」


「!?」


「その人のこと好きなの?」


「・・・・・多分初恋だった。今はわからない。自分の気持ちが」


「わからない?」


「・・・・・」


「そう。」


「なあ、なんでお前はそこまであいつを気にかけるんだ?」


「・・・・・あの娘は私にとっての恩人なのよ」


「恩人?」


「そう。私小さい時からこんな感じだから、こういう冷めた子って気に入らない子はとことん気にいらないのかしらね・・・・虐められてたのよ」


「そうなのか・・・・・」


「虐められることは別に苦ではなかった。所詮その程度の人間なんだって割り切れてから。ただ、………独りが辛かった」


「意外だな」


「そう?こう見えて寂しがりやなのよ。」


「・・・・・・」


「そいつらはクラスの中心だったから、報復を恐れて皆私と接点を持とうとしなかった。でも美波は違った」


「なにが?」


「あの子はそんなこと気にせず私に話かけ、遊び、一緒の時間を過ごしたわ。後から聞いた話ではあの娘としては私の斜めから見た発想が自分には無いものだからとても興味を惹かれ、時には参考になったんだとさ」


「・・・・・」


「そしてこうも言ったわ」



幸せのお裾分けだよ。ある人が言ってたの。私の笑顔って人を幸せにすることが出来るんだって、だから一人でも多くの人にその笑顔を届けなさいって


(・・・・・・)


「実際に私はその笑顔に救われた。あの娘が私の在り方を肯定してくれたから今の私がある」


「西宮………」


「だからあの娘を……美波を不幸にする奴、利用しようとする奴は許さない。それが私の捻れた美波への愛情よ」


「捻れたってお前」


「いくら救われた側が救ってくれた側の人の力になりたくても…………限界があるのよ」


「…………」


「ようやく見つけたと思ったあの娘を救う人が何その体たらく」


「俺が、北川を救う?前にもそんなこと言ってたけど、なんで俺なんだ?」


「その時言ったでしょ?あの娘が唯一自分からアピールさてアプローチするのは、貴方だけなのよ」


「!?」


「普段周りに合わせて、周りの為に言動するあの娘にとって。貴方が唯一『北川美波』を見て欲しい!、知って欲しい!と思えるそんな存在なの」


「でもあいつは…………」


「正直言うべきでは無いのかもしれない。けど私は貴方にあの娘を……美波を救って欲しい。だから敢えて伝えるわ」


「なにを?」


「…………後悔してる」


「!?」


「最近あの娘がそう言ってきたわ」


「後悔…………?」


「『久しぶりに憧れの人に偶然会えたら、誰でもあの反応するだろうし、琢磨が人に自分の内面を簡単にさらけ出す人じゃないのは、わかってる………はずだった。でもあの時の私は『仲間』で止まってしまっていた私達の関係がショックで、それに気がつけなかった』って」


「北川………」


「『振り向いてもらいたくて、先輩に嫉妬して必死にアピールしたけど、間違えた。もっとしっかり話せばよかった。そして私はまた昔と同じ過ちを繰り返している』って」


「昔の過ちって………!?」




見ての通り無邪気で真っ直ぐな子だからね。おまけに容姿も良い。だからよく言い寄られて異性と付き合うことが昔からあるわ




…………




そして自分から言い寄っておいて、あの子の愛情の重さに耐えられず一方的にフラれる。そしてあの子は自分を責めて悲しむのよ



「まさか………」


「真相は知らないわ。でもあの娘は今の関係が【ホンモノ】じゃないことに気がついてる」


「なんだよ。結局俺達は互いに誤解して勝手に勘違いして………今こうなってるってのかよ」


琢磨の瞳が潤んでいるのを西宮は見逃さなかった。


「…………どうするの貴方?」


「…………それでも色んな意見を聞いて俺が俺自身が納得させて決めたことだ。だから………進むだけだ」


(納得“させて“ね………)


「そう…………」


席を立ち上がる西宮。


「私が【共に青春を過ごした仲間として】貴方に言いたかったことはこんなとこね。あとは貴方の人生よ、貴方の思うがまま進めばいいわ。ただ1つ」


「なんだ?」


「過ちを認めて立ち止まることは、けして間違った事じゃないと私は思うわ」


「!?」


「じゃあね。美味しかったわ」


お金をテーブルに置き店を出る西宮。その後ろ姿を眺めながら、琢磨は両拳を額に当て沈黙するのだった。


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