第31話 揺らぐ想い
「やっぱり、たっくんだよね?」
親しみ込めて琢磨を呼ぶ女性。琢磨にとって篭りがちの時期に自分を気にかけ続けてくれた幼馴染………であった。
「みっちゃん………なの?」
「そうだよ。あれ幼馴染の顔忘れちゃった?」
「!!」
頬を赤らめる琢磨。
(『橘美月(たちばなみつき)』………懐かしい姉ちゃんじゃんか)
(そう………ですわね)
彼女は幼少の頃、琢磨の家の真向かいに住んでおり幼い頃からずっと琢磨と一緒にいた2歳上の女性。琢磨が中学生になる前に家の事情で引っ越して以来実に7年ぶりの再会となった。
「………なんか立派になったね」
「!!!」
「あの頃のたっくんじゃないみたいに別人。克服出来たんだ悩み」
自分の目が潤んでいることに動揺する琢磨。
(あの頃の琢磨を唯一気にかけ続けてくれた心の支えだもんな)
(…………。)
「たっくん?」
自分の感情を今にも行動に移してしまいそうな琢磨。これまで磨いてきた理性がそれを制止する。
琢磨の起こしたいアクションを感じ取った2体は納得の表情を浮かべていた。
「…………ちょっとこっち来て」
琢磨の手を掴み、人気がない部屋を探し入る2人。
「ここなら大丈夫だよ?」
「みっちゃん!」
思い切り美月に抱きつく琢磨。あまりの勢いに体勢を崩す美月。
「相変わらず甘えん坊さんなんだから」
「だって………まさかみっちゃんとこんな形で再会出来ると思わなかったから」
「私もびっくりしたよ。まさかたっくんがいるなんて思わなかった」
泣きじゃくる子どもを宥めるように優しく琢磨の頭を撫でる美月。
(にしてもあの琢磨が嬉しい再会とはいえ、ここまで感情に正直に動くとはな)
(………一波乱起きそうですわね)
(テン?)
「元気にしてた?」
「うん」
「優ちゃんも元気?」
「元気だよ」
「それは良かった」
「みっちゃんいつこっちに?」
「2年前だね、この大学に通い始めてだし、今は実家離れて一人暮らし中」
「おじさんとおばさんは元気?」
「うん。元気だよ…………そろそろ落ち着いた?」
「えっ、!?!?」
普段ならまずしない行動に今気がついた琢磨。素早く離れて背を向ける。
「そんなに露骨に離れなくていいのに。傷つくな〜」
「そっ、そんなつもりじゃあ」
「冗談だよ、なにせ7年ぶりだもんね。聞かせてたっくんの7年間」
席に座り直しお互いの7年を語り合う。空白の時間を埋めるように
「あっもうこんな時間」
気がつけば、空に星が輝いていた。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだね、もうこんな時間なのか………!?」
「どうしたの?」
気がつけば沢山のメッセージと電話が来ていた。
(完全に忘れてたなありゃ〜)
(…………。)
「ごめんみっちゃん。用事あるの忘れてた」
「あっごめんね。付き合わせちゃって」
「付き合わせるなんて、とんでもない」
「たっくん。ゼミ決めた?」
「ゼミ?」
「私このゼミにいるんだ。良かったらこの先生のゼミにたっくんも参加しない?」
交換したばかりの連絡先にメッセージが送られてくる。
「…………考えておく!」
「わかった。たっくん!また明日」
「うんまた明日」
笑顔で手を振る美月に手を振り返す琢磨。
「おっそ〜い、こんな時間になるまでなにやってたのさ」
「ごめん、ごめん練習どうだった?」
「さっすが強豪だけあってなかなか実のある練習だったよ」
「そうか」
「なんかいいことあった?やけに上機嫌だけど」
「別に変わらないぞ」
「…………遅刻してその態度腹立つな」
「ごめんって、今日は奢るから」
「部活でお腹空いてるからな覚悟してよね!琢磨」
思わね再会に心躍る琢磨。それに喜ぶアクと不安視するテン。2体の思惑の違いが波乱を起こすことになるとはこの時三者は想像もしなかった。
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