第28話 青春の終わり

「う~寒い」


もうすぐ聖夜。そんな中琢磨達は県有数の体育館に足を運んでいた。


「遂に来たのか………決勝戦」


「なんでもうちのバスケ部が決勝まで行くの10年振りらしいじゃん?」


「そうなのか…………」


「どうしました?先輩。」


「北川、スゲーなって思って。俺達と同好会しながらバスケ部の主将として去年越えどころか、あと1勝で全国かと思ってさ」


「因みにうちのバスケ部は全国大会未出場だそうです。」


「!?ってことはこれに勝ったら」


「新しい歴史を刻むのね」


「そうなりますね」


「おー早く試合始まらないかな〜」


「なんでアンタが興奮してるのよ、下僕」


「だって、新しい歴史の一場面を目撃出来るかもしれないんですよ!そりゃ興奮さしますよ!お嬢!!」


「お兄ちゃん〜、皆さん〜」


呼び声がする方には優が待っていた。


「優。来たのか。」


「だって美波ちゃんのこれまでの集大成でしょ!応援に行かない訳ないじゃない!!」


「そうだな」


「中入ろうぜ寒み〜よ」


体育館の中は既に熱気に包まれていた。


「試合前なのに凄い盛り上がりですね」


「うちの高校は特に10年振りだけあって熱が段違いね」


「丁度うちの高校のアップみたいだな」


部活着を着た北川、琢磨には新鮮に見えた。


「カッコイイ」


「北川先輩。普段からは想像つかないくらいに別人ですね」


「おーい北川!期待してるぞ〜」


「…………凄い集中力」


「主将ですものね。」


(おっ一瞬こっち見たか?)


(そうですか?そうには見えませんでした)


『日ノ本第一高校』の皆さん試合前練習時間終了です。切り上げて試合への準備をお願いします。


アナウンスと共に控室へ戻る日ノ本第一高校バスケットボール部の面々。応援席が熱い声援を送る。


「いや~試合前なのに凄い熱気!じゃあ俺もファイト~日ノ一バスケ部!!」


「美波~頑張れ~」


「頑張れ~日ノ一バスケ部~」


選手の面々が自分達から見切れようかというところで、美波がこちらに気が付き笑顔で手を振った。


「北川。こっちに手を振ってるぞ」


「案外余裕あるのな」


「リラックス出来ていた方がいいわよ」


「それもそうだな」


ビ~~~~~


全国を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。


「おいおい、今更だけど相手の『桜華高校』って全国大会の常連らしいじゃん」


「全国大会でも何度も優勝してますね、最近だと4年前」


「え~相手ってそんなに強いところなの」


「大丈夫だ。日ノ一バスケ部なら・・・・北川なら」


「琢磨・・・・・」




それは3日前、終業式を終えた後の学校。琢磨はいつもの場所で目標に向けて勉学に勤しんでいた。


「御使くん。そろそろいいですか?」


「白石先生。もうこんな時間!すみません」


「いえいえ勉強熱心なことは。一教師としてこれほど嬉しいことはありません。私もやることがあったので待たされていた訳ではありませんし。しかしながら君の集中力は凄いですね。日が沈ずみ始めているのに気づかなかったのでしょう?」


「恥ずかしながら、ですが目標に到達するにはこれくらい・・・・・」


「関東6大学に名を連ねる場所ですもんね。志望大学」


「はい」


「頑張ってくださいね。」


「ありがとうございます。」


「そういえば!良かったですね。」


「えっ」


「日笠さんが友達を勧誘して『ディベート同好会』存続出来て」


「そうですね。彼女には感謝してます」


「私も活動記録を見ていて無くなるのは惜しいと思っていたので。存続出来る事嬉しく思います。」


「同好会。宜しくお願いします。白石先生」


「お任せください」


支度を終え学校を後にしようとする琢磨。ふと視界に入った体育館は明かりが点いていた。


「ハァハァハァ・・・・・」


「こら北川!下校時間だぞ!!」


「すっ、すみません!・・・・・って琢磨」


「よお、似てたか?」


「ビビったぞ、全く」


「一人か?」


「部の練習はもう結構前に終わってるよ。ただ・・・・・物足りなくて」


「北川らしい」


「そうか?」


「明後日だもんな決勝」


「・・・・・・。」


「北川?」


「琢磨。対戦校覚えてるか?」


「対戦校・・・・・確か桜華だっけ」


「うん」


「・・・・・あっ去年のベスト8で敗退した時の」


「嬉しいんだ。雪辱を果たしたい相手に勝てば、学校の歴史に自分達の代を刻むことが出来る。なんだけど」


「らしくないな北川。どうした?」


「あれ以来。フリースローが決まらないんだ」


「えっ」


「練習では決まるんだけどね。試合になって大事な局面で自分に回ってくると・・・・・入らないんだ」


周りに転がるボールが北川が何をしていたかを琢磨に伝えていた。


「もし明後日大事な場面で私に回ってきたらと思うと落ち着かなくて」


「・・・・・・なに馬鹿なこと言ってんだ美波」


「えっ」


「お前がこの1年どれだけこの時に捧げてきたか、俺は知ってる。その俺が断言する。お前はフリースローを決められる!」


「・・・・・」


「だから、俺を信じろ!お前の努力を保証してやると断言する俺を信じろ!!」


「・・・・・・ぷっ、ぷははは、なんだそれ」


「・・・・・ハッ、なんで笑ってる北川?」


「そんな根性論でなんとかなったら苦労しないっての」


「根性論?」


「でも」


トントントン


ボールを持ちゴールへ向けて手首を捻る美波。ボールは綺麗な放物線を描きゴールネットに吸い込まれた。


「おぉ・・・・・」


「ありがとう琢磨。お陰で少し気が楽になった」


「そうか」


「なんかきり良いし今日はこれくらいにするよ」


「片付け手伝うよ」


「っ!ありがとう・・・・・にしても熱血琢磨久しぶりに見るとやっぱ面白いな!」


「・・・・・そうか?」


「うん。普段とのギャップが」


(・・・・・アクさん)


(いいじゃないか、美波ちゃん元気でたし)




「あいつのこの試合に賭ける思いは人一倍だからな」


「そうね」


「そうだよな」


一進一退の攻防が続く。観客の大半は相手校である桜華有利と予想していたのだろう予想外の接戦会場のボルテージはますます盛り上がる。


そして第4Qの残り6分でその時が訪れた。


「86-88・・・・このファールで貰ったフリースロー2本とも決めれば同点に追いつける訳だな」


「そうね」


「シュートは北川先輩が打つようですね」


トントントン


先程の最高潮なボルテージが嘘のような静寂が会場を包む。


ポールを放つ美波・・・・会場が一瞬沸く


「よし、あと1本」


「美波。決めろ!」


「北川?」


一瞬こちらを見たような気がした。


「なんだよ北川・・・・・この緊張感で笑ってるぞ」


「あの子のメンタルの強さは伊達じゃないのよ!」


「先輩!」


「美波ちゃん」


応援席にいる人々の拳に力が入る


「これは・・・・・」


「琢磨?」


(この放物線・・・・・)


(あの時と同じですわ)


ワ~~~~~~


「同点・・・・同点だ~」


「美波!!!」


「先輩・・・・凄いです」


「美波ちゃ~~~ん!最高!!!」


美波がこちらに笑顔でピースする。思わず琢磨は親指を立てて応えた。


同点となった試合は残り6分間さらに激しい攻防となった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る