第26話 求めていたモノ
「いやっほ~う!!」
高校最後の夏休みのとある日。琢磨はいつもの面々とプールに来ていた。
「はしゃぐな、子どもじゃないんだから」
「こういうのは楽しんだもの勝ちだろ」
プールは大勢の客で賑わっている。
「下僕。場所の確保は出来てるの?」
女子勢が遅れて合流する。
「勿論です!お嬢様」
「………キモ」
「なっ!優ちゃん〜」
「・・・・・フン」
「ごめんね東条。いつもこういうの任せっきりで」
「なに言ってんだ北川!こういうことは俺が一番よく知ってるから俺が手筈整えればいんだよ」
「ありがとう〜」
「日頃の部活の疲れ、今日めいいっぱい遊んで発散してきな!」
「おう!」
「…………いや、自宅で休ませた方が身体的にはいいんじゃないのか?」
「人には人の休み方があるんだよ琢磨!」
「よーしあたし一番〜」
「おい北川ずるいぞ、さっお嬢様こちらへ」
「さっさと案内してよ」
「…………ねぇお兄ちゃん。私って一緒に来て良かったの?」
「あいつらがいいなら、いいんじゃないか?」
「こういう所始めてだな〜お兄ちゃんがこういうところ行きたがらなかったからまともにテーマパークとかで遊んだことなかったもんね」
「悪かったな、存分に楽しんでこい」
「優ちゃん~おいでよ~!月子ちゃんも」
「はい!美波さん」
優は美波のもとへ駆け足で向かう。
「・・・・・どうした日笠?お前も呼ばれてるぞ?」
「・・・・・・。」
「日笠?」
「あっはい。すみません。なんでした?先輩」
「いや、北川がお前を呼んでるし行って来たらどうだ?」
「・・・・・・」
「おっおい」
「!?」
「なら先輩も行きましょう」
「自分で歩くから引っ張るな!」
(どうしたんだ後輩ちゃん?)
(さぁ………)
各々がプールを満喫する。流れるプールに流される者、波が押し寄せるプールではしゃぎ合う者達、パラソルを立て日光浴をする者。
「西宮お前。プールも泳がないのかよ?」
「人には人の過ごし方があるのよ」
「それもそうか」
「貴方も相変わらず、もう体力切れ?」
「まあそんなところかな・・・・・またこうして4人でこういうとこ来れると思わなかった」
「・・・・・まあ貴方が一番嫌がりそうだけど」
「クラス分けの時、お前らと離れ離れになってさ、俺正直不安だった。」
「見事に4人別々のクラスだものね」
「正直。去年クラスに馴染めたのは東条や北川のおかげってのがわかってたから新しいクラスでやってけれるか不安でまた前の自分に戻りかけてた」
「・・・・・・。」
「だから、東条が部活を作ろうって言い出した時。冷やかしたけど凄く嬉しくてさ。『ディベート同好会』のおかげでなんとか前の自分に戻らずに済んでるんだ。」
「感謝しなきゃね。あの下僕に」
「いや、あいつの場合調子に乗るから伝えないけどな」
「フフフ確かに。・・・・・きっと貴方だけじゃない。下僕や美波にとっても『ディベート同好会』は必要だったんじゃないかしら」
「そうか?」
「聞くところによると下僕・・・・・クラスで浮いてるみたいよ」
「そうなのか!?」
「あの性格が受験に必死なクラスメイトには目障りなんでしょうね。クラスで浮いてて惨めだって下僕と同じクラスの友達から聞いたわ」
「・・・・・あいつがあそこまで俺達といることに拘るのはそんな訳があったのか」
「あの性格が人付き合いでなんでもプラスに働く訳ではないってことね」
「東条・・・・・」
「それに美波にとってもきっとここは必要な居場所なのよ」
「北川も?」
「あの子あんな性格だからストッパーがいないとどんどん背負いこんじゃうのよね。クラスの委員長やら部活の主将やら」
「多くの肩書に縛られてるあの子にとって『ディベート同好会』は唯一自分を開放出来る場所なんじゃないかしら。」
「そうか。だから北川は部活休みでも言う事聞かずに『ディベート同好会』に参加したがるのか」
「多分ね」
「西宮はどうなんだ?」
「私は別にクラスでそれとなく人付き合いしてるから問題ないけど、美波と同じ居場所がある。それは私にとってやっぱり大きな意義があるわ」
「・・・・・皆求めていたものは同じってことか」
「そういうことよ。フフフ」
「なんだよ急に」
「いや1年前もこんなシチュエーションで貴方と話したことあったなってふと思い出して」
「そういえば、そうだな」
「貴方が妙につっかっかってくるから余計なことを話した記憶があるわ」
「それは、悪かった。」
(・・・・・・お前も謝ったらどうだ?)
(・・・・・・いいのです。今は出る幕ではありません)
「まああれがある意味私の中で吹っ切れた側面もあるから悪い気はしてないわ」
「それは・・・・・良かった」
「そういえば最近。貴方の性格安定してるわね」
「えっ」
「あの時もそうだけど、なんか異常に熱苦しくなったり、異常に冷めたりして多重人格者みたいで面白かったのに」
(!?)(!?)
「でも、今の貴方が一番『御使琢磨』って感じがするわ」
「・・・・・言いたいことがよくわからないけど、褒められてると受け取っておこう」
「フフフ」
(油断ならん姉ちゃんだ)
(まさか私達の存在に感づているんじゃ)
「あ~また2人でくつろいでる~」
プールから4人が上がってきた。
「どうした揃って」
「休憩タイムだ。10分間のなんの話してたんだ?」
「思い出話よ」
「折角来たのに泳ごーよー」
「わかったわかった泳ぐわよ美波」
「やたー」
「2人は楽しんでるか?」
「うん!」
「ええ、まあ」
「ならよかった。」
「なあ休憩上がりあれ行かないか?」
東条の指さす先には巨大な滑り台があった。
「ウォータースライダー?」
「いいね!」
「この猿いいこと言うじゃん!」
「優ちゃんなんかその言い方傷つく」
「面白そうですね」
「ガキか」
「あ~また水を差すようなこと言う琢磨」
「そうだそうだ!楽しんだもの勝ちだぞ~琢磨」
「お兄ちゃんの方が見え張ってガキなんじゃない?」
「なんだと優」
「きゃー怖い~」
「先輩最低です」
「おいおい」
「あらあら」
「た・く・ま・くん。お忘れではありませんか?」
「何を?」
「今日は貴方の希望されてた私への贖罪の日なのですよ」
「うっ」
「ということは、貴方に拒否権はありませんよね~」
「・・・・・わかったよ」
「やったー!沙織は?」
「折角だから、体験しようかしら」
(したたかだな~)
(琢磨さんと同意見の癖に~)
「あのウォータースライダー2人乗りだからペア決めとこ」
「どうやって?」
「それは勿論・・・・・じゃんけんでしょ!」
「よーし乗った」
「いいね」
「なんでこれでこんな盛り上がれるんだ?」
「これがあの2人じゃない?」
「それも・・・・・そうか」
「じゃあいくぞー----」
ジャン・ケン・・・・・・・
「じゃあお先お兄ちゃん!」
キャーー--
「・・・・・結構なスピードだな」
「スリリングだろ?では参りましょうお嬢様」
「私がボートから落ちないようにしっかりコントロールしなさいよ。下僕」
「ハッ!お嬢様」
「もう~2人とも恥ずかしいからやめて」
「じゃあお先2人さん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
(久々のチャンス!琢磨!!)
(さあ成長を見せる時です!琢磨さん!!)
「どう乗る?」
「どう、しよか」
「俺が後ろのほうが無難か」
「でも後ろの人がコントロールするんでしょ?私やるよ」
「いや待てそれはマズい」
「なんで?」
「それは・・・・・その折角北川の部活の労いってのもあるんだからお前が楽しまなきゃ」
「後ろは後ろで楽しそうだけどな~」
「なら2回乗るか」
「えっ!?」
(琢磨!!)
(琢磨さん!!)
「その・・・・嫌か?」
「いや、そんなことないぞ」
「お二人さん準備はよろしいですか?」
「あっ!はい」
「すみません」
ボートに乗った2人
「では行きますよ~」
「琢磨」
「どうした?」
「今?楽しいか?」
「あぁ楽しいよ」
「そっか、良かった」
滑り出すボート、思いの他速いスピードで必死にコントロールする琢磨
「琢磨カーブだよ!速い!速すぎるよ!!」
「これ思った以上にコントロールが難しい」
「キャーー---」
「ウオーー----」
「お兄ちゃん達なかなか滑ってきませんね」
「どうせ、どっちが後ろ乗るかで悩んでるんじゃないのか」
「あっボートが・・・・・」
「ボートだけ?」
あっ・・・・・・
互いにしがみつき合いながらボートに遅れて絶叫と共に流れてきた。
「だから琢磨、私が後ろに乗るっていたのに」
「こんなにコントロール難しいと思わなかったんだよ・・・・ってなんだよ皆その好奇な目は」
「まさかあのウォータースライダーにそんな乗り方があったとはな」
「お兄ちゃん大胆♪」
「えっ・・・・違うこれは・・・・ハッ!」
「お嬢・・・・目が目が怖いっす」
「このムッツリスケベが~~~」
「あ~~~沙織待って~これは!」
「待て西宮話せば・・・・・グホ」
「ハハハ・・・・琢磨やるな~」
「・・・・・。」
(どうしたのですか月子?)
「別に」
(羨ましいんだろ)
「・・・・・・」
(月子・・・・・)
(なにが羨ましいんだ?ラッキースケベか?それとも・・・・)
「うるさい」
「月子さん?」
「・・・・・ペアを変えてもう一度乗りませんか?」
「いいね~じゃあ早速ジャン・ケン・・・・・」
「よろしくな月子ちゃん」
「はいお手柔らかに東条先輩」
「どっちが前、後ろ?」
「体力ある美波が後ろよ」
「OK」
「・・・・・妹にまでラッキーなことするなよ琢磨」
「なっ!しねーよ」
「お兄ちゃん・・・・最低ー」
「優!お前な~」
ハハハハハハ
自分には見えてなかったそれぞれの悩みを新たな思い出の1ページと共に知った琢磨『自分の居場所』の重要さに改めて気づかされる1日となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます