第25話 己の視野

「暑い〜」


セミの鳴き声が教室の静けさを物語る。


「死ぬ~」


「東条。うるさいぞ」


「なんで、ここで試験勉強なんだよ~」


「あんたと違って私と御使にとっては自分の現在地を知る上で重要な試験なのよ下僕。」


「折角集まったのに、静かに勉強なんて。もったいないですよ~お嬢様」


「・・・・・日笠ちゃんを見習いなさい。私達に気を使って試験終了までは顔出さないって言ってくれたのよ。日笠ちゃんの気遣いを無駄にしないで」


「あ~北川はバスケがあるから勉強地獄からリフレッシュ出来ていいな~」


「いいわけないじゃない。その分効率良くやらないとどっちも望んだ結果を得られない可能性の方が高いんだから」


「もともと今日はこういう時間として使うって前に言っておいたろ?勉強せず邪魔をするなら帰れ」


「冷たいな~琢磨。じゃあ終わったら教えてくれ」


「わかった。」


(もう少し言い方あったんじゃないか?琢磨)


(いいのです。大事な時期だと言うのに遊ぶことしか頭の無い猿にはあれくらいが丁度良いですわ)




「御使・・・・・御使。」


「どうした西宮」


「そろそろ学校の定める部活の活動終了時間よ」


「もうそんな時間か」


「凄い集中力ね、あれから一言もしゃべらず、一度も席から離れないなんて」


「そうか?」


「ひたすら教材しか見てなかったもの。下僕にちょっとキツめの当たりをしたのには

少し驚いたけど、あなたの受験に対する姿勢は恐れいるわね」


「これだけ1つのことに目を向けても、俺より優秀な人はごまんといるからな。西宮みたいに」


「あら、なんか悪いわね・・・・・ねえ御使」


「なんだ?」


「今、楽しい?」


「それなりに充実しているが、それがどうした?」


「そう、ならいいんだけど。さあ帰りましょう」


「あぁ」


校門前で2人の男女が楽し気に会話をしていた。


「あっ!沙織。琢磨!!」


「美波。部活終わったの?」


「うん。帰ろうとしたら東条が校門前に突っ立ってるからビックリしたよ」


「いや~勉強の邪魔しちゃ悪いから終わるの待ってたら、こんな時間だもんな」


「お前・・・・あれからずっと待ってたのか」


「ったり前じゃん。約束したろ?」


「ごめん」


「なんで謝る?ずっと受験勉強してたんだろ?」


「それはそうだが」


「俺は約束通り待ってた。それだけだ」


「お前の時間を無駄にした」


「なんかあったの?」


「ちょっとね」


「別に俺は無駄だとは思ってないから、気にするなよ琢磨。待ってる間いろんな人と話してたからずっと1人って訳でもないし」


「けど、それじゃあ申し訳がつかない」


「だから気にすんなって、ホント変に頑固なんだよな~琢磨」


「・・・・・すまん」


「・・・・・じゃあ、試験が終わったら1日俺に付き合う。それでチャラだ」


「何するんだ?」


「それはその時になってからのお楽しみ」


「わかった」


「・・・・・帰ろ?」


「そうだな」


「あ~腹減った~」


「実は私も~」


「今日は琢磨の驕りな」


「わかった」


「あっ、言っておくけどこれとその日は別だかんな」


「・・・・・わかってるよ」


「ホント、馬鹿ね」


「あぁ、ホントに」


自分の悪い癖を自然と指摘してくれる友。琢磨がその有難みをひしひしと感じたある文月の夜であった。



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