第24話 先輩と後輩

日笠の衝撃的なカミングアウトから1週間経とうとした頃。初めて部活で5人が揃った。


「皆お久ー」


「おっ北川じゃん!今日は部活休みなのか?」


「うん!だから今日は参加するよー」


「ゆっくり休んでていいのに美波」


「ありがとう沙織。でも私皆と会って過ごした方が休まるから」


「ならいいけど」


「琢磨!調子はどうだ?」


「いつも通り。お前も元気そうでなによりだ北川」


「皆と話したいこと沢山あるからね。今日は日が暮れても帰さないよ〜。…………そういえばこの娘誰?」


「最近入部した。日笠月子さん。一学年下で俺達の後輩にあたるみたいだ」


「そうなんだ!よろしくね!日笠さん」


「お会い出来て光栄です北川先輩!」


「やだな〜大袈裟だよ」


「我が校のマドンナにこうしてお会い出来ることに私。感激してます」


「アハハハそう?まあこれから一緒に活動するんだしよろしくね!」


「はい!」


(…………あれから1週間。全くわからない娘だな)


(どれが本当の顔なのかしら?)


(どれも月子だ)


(!?お兄様)


(…………そのような姿で我が愛しき妹の声がするのは、慣れれんな)


(そうですよね、お兄さん)


(貴様殺されたいか?)


(あっいえすみません。)


(あの娘私達が憑依した時からずっとあんな感じよね〜)


(姉貴!)


(…………プハァー。その見た目からアクの声がするの、やっぱウケるわ〜)


(お姉さん………)


(…………その容姿で丁寧な言葉遣い。調子狂うわ〜。ってそれはいいとして。状況によって顔を使い分けるから、【色んな月子】がいるのよ。今みたいに地味な感じの月子、あんたらの憑依者と2人きりの時みたいに積極的で明るい月子。私達と会話する時のどこか達観した月子…………)


(達観している?)


(そうだ。俺達が憑依しているという事実を受け入れ、どこか他人事のように会話をする。それが私達と話す時の月子だ)


(憑依していて、どれが本当の彼女なのかわからないモノなのですか?)


(………なかなか痛いところを突くなテン。)


(すみません。お兄様)


(いや気にするな、私もこの悪魔も憑依して随分経つが、今だ月子の本質は見えてない)


(なんで?)


(どれも、本当にあの娘だからだよ。嘘偽りじゃない全ての言動があの娘の心からきている言動なんだ)


(それはつまり)


(多重人格者とか疑ってるなら、違うぜ〜。そんなものいたら私達はその【もう1人の月子】と既に邂逅してるはずだからな)


(…………ではお兄様達は)


(あぁ、正直上手くいってない)


(!?)(!?)


(あの娘の本質に触れてる感覚全くないもんね)


(そうだな。正直焦りすら感じているよ。それと比較するとお前達は良くやっているな)


(!?)(!?)


(確実にあの者の人生に良い影響を与えているのが関係性を見てわかる)


(どんな奥の手使ったのよ?)


(なっ!そんなの使ってませんわ)


(そっそうだぜ姉貴!)


(あらそう。冷やかしのつもりだったけど随分熱く反論するのね)


(!?)(!?)


(まぁテンに限って禁術を使ったりなどしてはいないだろう)


(…………)(……………)


「あんた達うるさい」


(!?)(!?)(!?)(!?)


「えっ」「!?」「月子ちゃん?」「…………」


「あっすみません。」


「大丈夫?月子ちゃん?」


「すみません。」


「そういうのお腹いっぱいだぜ、なぁ琢磨?」


「余計なお世話だ」


「この男も時々突然叫ぶんだよ〜」


「御使先輩が………そうなんですね」


「…………」


「まぁ琢磨の場合なんか考え事してること多いし煮詰まった時にそうなりやすいから気にならないけどね」


「…………」


「さて今日は初めて5人で活動するわけだけど、どうする?」


「日笠さん入部記念に『部活』したから無理に『部活』する必要ないものね」


「そうなの?それは残念。」


「あら美波。やりたかったの?」


「うん………」


「別にそれでもいいけど、お題はどうする?」


「因みに前回はなんて議題?」


「『人を形成するのは遺伝か環境か』って議題よ、結果は『同じ親に生まれた兄弟及び姉妹でも、人付き合いや周囲の環境で全く違う性格になる』っていう月子ちゃんの意見が響いて『人を形成するのは環境』って結論になったわ」


「凄く難しそうな議論………」


「実際超難しかったけどな」


「う〜ん…………。じゃあこんなのはどう?」



「あ〜楽しかった!」


「『生きるのに受験は必要か否か』なんて、受験生の俺達のする議論じゃないよな」


「全く美波ったら」


「アハハハ…………」


「それにしても痛快だったな北川の『自分の考えと反対の立場でディベートする』って案は!琢磨の自分の考えと矛盾した事を述べる時の苦悩の表情笑えたぜ」


「趣味悪いぞ東条」


「ごめん、ごめん」


「でももっとリラックスしてやって良かったんじゃない?。別に部活の記録として残すつもりなかったんだし」


「そんなに器用に立ち回れたら苦労してないんだよ」


「確かに」


「それとは逆で日笠さんは凄かったわね。どっちに転んでもちゃんと自分の考えを皆に納得させるだけの説得力があって」


「学校でトップを競う秀才である西宮先輩にそう言ってもらえて光栄です。リラックス程度にと仰っていたのに皆さん中々しっかり議論されていたので、途中から記録取ってみました。」


「なに!?」


「すごーい」


「ホントに月子ちゃん」


「あら、優秀。」


「見せて見せてー本当だ細かく議事録書いてある。」


「前半は私の記憶を辿ってなので間違いがあるかもしれませんが」


「ここまで月子ちゃんがやってくれたんなら、部活の記録として残そうぜ」


「絶対嫌だ!」


「なんでだよ琢磨〜」


「いいじゃん!私が参加した記録残してよー」


「偽りの意見なんて記録として残すべきじゃない」


「別にいいじゃん。誰もそんなとこ指摘しないよ!」


「俺個人としてそれが許せないんだ!」


3人の言い合いを一歩引いて見守る西宮。


「全く。子どもじゃないんだから」


「先輩達楽しそうですね。」


「まあね、ああやって戯れ合う為に作った部活だし。これが正常運転よ」


「…………。」


「日笠さん?」


「いえ、なんでもありません。お先に失礼します。」


「えぇ、また明日ね」


「じゃあね西宮さん!」 


「また明日な」


「じゃあな」


「…………。」


(月子………)


(へぇー)


4人の後ろ姿を見送る日笠。


(これは…………)


(思わぬ収穫だね)


姿が見えなくなるまで日笠はじっと見送った。




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