第18話 初夢

(嘘だろ………どうするテン)


(どうするもこうするもありませんわ!アクさん)


いつになく騒がしい2体に琢磨はイラつきながら反応する。


「なんだお前達もう少し寝かせろ」


(それどころしゃないんだ琢磨)


(そうなんです。それどころではないんです!)


2人の慌てふためきぶりを確かに変だと感じる琢磨。


「どうしたんだ、揃いも揃って?」


(天使長が来るんだ)(悪魔長がいらっしゃるんです)


「それがどうした?」


(マズいぞ、俺達が禁忌を犯したことを知って罰を下しに来るのかもしれん)


(まだ初犯の注意で済むかもしれません)


「いや、お前達随分悪用してただろ」


(…………)


(…………!!この光は)


眩い光と共に、髭を蓄えた気品ある白衣装の老人と威厳ある黒衣装の老人が現れた。


(お久しゅうございます。天使長)


(お久しぶりです。悪魔長)


2体はお互いの長の前で膝まづいた。


(あて?悪魔など従えた覚えはないのだが?)


(あん?俺はアクに会いに来たんだ貴様は誰だ)


(!?)(!?)


(こいつら入れ替わってるんだったな。すっかり忘れてた)


お互い肩を組み必死にアピールする


(心配なさらずとも琢磨をしっかり導いてるぜ)


(ご安心くださいお二人方)


(!?)(!?)


2体に衝撃が走る。


(儂の儂のテンが………)


(アク。テメーふざけてんのか?)


(!?てっ天使長を驚かせるジョークですわ)


(!?じょ冗談だ冗談。そう怒るなよ悪魔長)


「大変だなお前ら」


(ふむ、そなたがこの2体の憑依者の御使琢磨か?)


「そうです」


(この2体から聞き及んでおるかもしれんが、儂が天使長の『ゼウス』)


(俺が悪魔長の『サタン』だ)


(突然すまぬのお邪魔して)


「いえ、別に大丈夫です」


(羽休めの間。修行に励んでいる奴等の様子を見に来た次第でな)


「そうですか、お気になさらず労ってあげてください」


(!?)(!?)


(ウムウム。良き憑依者に巡り合っておるようじゃな我が娘よ)


(!?)


(順調な進み具合のようだな倅よ)


(!?)


(親子だったのかよ!?って顔で両者見合うな)


(はっはい、おっお父様、てっテンはこの悪魔と共に琢磨さんをしっかり導き充実した日々を過ごしています……わ)


(なかなか人間関係の構築に苦戦してた琢磨がおっ俺達がアドバイスして最近友達が増えてきてるんだっ……ぜっおっ親父)


(そうか、そうか順調そうでなによりじゃ)


(憑依者の人格乗取ってポイント稼ぎするような輩もいるからな、まぁ俺の倅に限ってそれはないだろうが)


(!?)(!?)


(どうしたテン?顔色が優れないの〜?)


(貴様もだアク。冷汗などかいてお前らしくもない)


(そっ、そんなことはないぜ親父!なあテン。)


(はい!アクさんの言う通りですわお父様。)


(・・・・・あっ)(あっ・・・・・)

(!?)(!?)


「・・・・・。」


(どっどっどういうことじゃ。儂の、儂の自慢の我が娘が)


(俺の倅が)


2体が自分の子(?)の前に立つと只ならぬ威圧感を琢磨は肌で感じた。


(おい小僧。我が娘の身体を乗っ取るとはいい度胸しておるの)


天使長の髪がなびき、周囲に稲妻が走る。


(おい小娘。俺の倅になにをした?返答次第では貴様・・・・・)


悪魔長の髪が反り立ち、周囲に荒々しい風が吹き纏う。


(ちっ違うんです親父さんこれにはちょっとした訳が)


(そうなんですお父さん簡単には説明出来ない事情が・・・・・)


(主に父呼ばわりされる筋合いは無い!)(貴様に父呼ばわりされる筋合いは無い!)


(はい!!)(申し訳ありません)


2体はお互いの額をぶつけ合う。


(おい悪魔長よ、ちょいと悪ふざけが過ぎるんじゃないか)


(ほざけ、貴様こそなんの企みだ天使長。身体を乗っ取らせるなど)


(乗っ取りはむしろお前さんらの得意分野じゃろうが、ウチのテンはそんなことせんわ)


(俺の倅アクもそんな卑怯なことはしねえ。裏でこそこそやるのは貴様らの特許だろ)


(なんじゃい、やるか?)


(上等だ老いぼれ)


両者から更に力が溢れ出す。



御二方は絶大な権力を持つ。御二方の一存で人類を滅ぼすくらいにな



前に2体に言われたことを思い出す琢磨。


「お二方とも落ち着いて・・・・・」


(黙れ小童!)(黙れ小童!)


「すっすみませんでした」


(やばいぞこのままじゃ・・・・・下手したら世界はこの喧嘩が原因で崩壊するんじゃないか・・・・・なにか手は)



(貴方。まだですの)(おい!いつまでやっておる)


(!?)(!?)


琢磨の知らぬ声がどこからか聞こえてきた。


佇まいから天使とわかる女性と妖艶でパンクな女性が現れる。


(キャー!テンちゃん久しぶり~元気にしてましたか?)


(アク~~~元気だっか?寂しくは無かったか?)


お互いがお互いの子(?)を強く抱きしめる。


(よすのじゃそいつは)


(そうだ。そいつは俺たちの倅じゃ)


(なんですって)(あぁ)


さっきまでのデレっぷりが嘘のように殺気立つ2体


(貴方・・・・・・自分の娘に向かってなんてこと言うの?)


(テメーは自分の息子もわからねえ程ボケが進んだかアァ)


(いや、それはその)


(ちっ違うんだ)


(言い訳は無用ですよ)


(あとでじっくり聞いてやるから、私を納得させる言い訳考えとけよ)


(はい、すみません)(はい)


急速に溢れていた力が減退する。


(じゃあねテンちゃん。この愚かな貴女のお父さんは私がしっかりお説教しておきますから、引き続きお勤め頑張ってくださいね)


(この馬鹿親父はしっかりあたしが絞めておくからよ。頑張れよアク)


(はい・・・・)(はい・・・・)


女性2体は夫を連れて互いに軽く会釈すると姿を消した。


(なんとかなったのか?)


(そう、ですわね)


「なんか疲れた」


(悪かったな琢磨俺達の事情に巻き込んでって琢磨!?)


(琢磨さん!?)



「ハッ!」


気が付くといつもの布団の上であった。


「お兄ちゃん?」


部屋の扉が開き、妹の優が顔を覗かせる。


「大丈夫?随分うなされてたけど」


「優か、大丈夫だよ」


「お兄ちゃん」


「なんだ」


「明けましておめでとう」


「あっあぁそうか明けましておめでとう」


「お父さんもお母さんも起きてるから早く起きて新年の挨拶しなよ」


「わざわざありがとな優。」


「うん」


部屋の扉が閉まる。


(まさかアレが初夢・・・・・?最悪だ)


母は強し。という言葉の意味を実感した琢磨の初夢(?)であった。



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