第10話 頂きを目指して

「山って山登りかよ」


渉の提案で山へ行くことになった4人。別のイメージをしていた琢磨達は思わず愚痴をこぼした。


「ペンションに2泊とかかと思ったから、山登りする装備は持ってないぞしかもこのめちゃ暑い中」


「安心しろ!この山は登山初心者向けにありとあらゆる登山に関することをサポートしてくれる店がある」


「私も反対〜なんで山登りなのさ」


割と息の合う美波も流石にと言わんばかりに不満をあらわにする。


「………俺の、趣味です」


「私も山登り嫌だな。下僕、私を担いで登れ」


「お嬢様。流石にそれは」


「わかったな?」


「善処します」


(善処するのかよー)(やめておけ東条!)


沙織の圧のある視線に屈服する渉を2人は同情の目で見守った。


山の近くにあるお店で装備をレンタルし登山を開始する4人。


「しかし東条に登山の趣味があったとはな」


「小さい頃よく家族でキャンプしてて本格的ではないけど登山の真似事してたからかもな」


「しかし、やはり時期を間違えたんじゃないのか?暑すぎるぞ」


「ゆっても1500mくらいの低山だから、初心者でも比較的に登りやすいはずさ」


「沙織………本当に東条に担がせるの?」


「出来たらそうして欲しいけど、流石にこの装備じゃ自分で歩くよ」


「お嬢様。申し訳御座いません」


「下山後のご飯はあんたの奢りね下僕」


「はっ、喜んで!」


渉を先頭に沙織、美波、琢磨の順に列にとなって山登りが続く。


(なんか琢磨辛そうだな)


(元々体力は余りお持ちではないですからね、琢磨さんは)


(なんか列が間延びしてる気がするのは気のせいか?)


(確かにそんな気がしますね)


「琢磨。大丈夫か?」


「あぁ、ごめん北川大丈夫だ」


(あのお嬢ちゃん。やっぱり良い子)


(そう……ですわね)


「悪い悪い、あとちょっとで休憩が出来るスペースがある場所に着くからもうちょい頑張ってくれ」


「あぁ、わかった」




「お疲れ様。一旦ここで休憩にしよう」


休憩が出来るスペースに着いた4人。


「弁当作ったんだけど、皆どうかな?」


美波が弁当を広げると真っ先に渉が食いつく。


「おっいいねー!いただきます」


「あら、私も作ったのよ?」


「お嬢様のご用意くださったお弁当。頂戴します」


「ハハハ。琢磨どうだ?」


「ありがとう。いただくよ」


美波の作った弁当を口に運ぶ琢磨。


「どうかな?」


「旨いよ。こんなに料理が上手いなんて思わなかった」


「一言余計だ」


「ごめんごめん」


にこやかな雰囲気が漂う。


「あら御使。なら私のも食べてみてよ」


「いいのか?じゃあ」


(待ってください、琢磨さん)


琢磨の頭にテンの声が響く


(アホ猿を見てください)


チラッと目を移すと渉の目に精気が無くなっていた。


(あの元気な男の目が死んでる!?)


(恐らく、余程ご飯として食べられた物では無いのでしょう。しかしあのアホ猿はあの女と主従関係を結んでいる故に本音の反応が出せないのです。ここは食べるべきではありません。この後の登山を考えると、ここで体調を崩しては登頂出来なくなります)


(けどよ、無下にも出来ないぞ。ましてやあの娘はその後の反応がなにをしでかすかわからない)


「………アクのいう通りだな、ここは」


(いけません、琢磨さん!こうなれば)


「おい、東条。気分悪いのか?」


琢磨(?)はその場凌ぎで東条に振る


「えっ、全然………大丈夫だぜ…………」


「確かに顔が優れないな下僕」


「いや………そんなことは…………」


「この後の登山もお前に色々頑張ってもらわなきゃいけないからな、沢山食え」


「!?いやもう腹いっぱいだ」


渉の顔から血の気が引く。


「遠慮するな、早く食べて再開するぞ」


「琢磨。東条辛そうだし無理に押し付けない方が」


「まさか東条ここでへばるとか無いもんな、しっかり体力を回復させないと」


「確かに案内人も務める下僕の脱落は支障が出る。私の弁当で英気を養え」


「はい…………ウプ」


(おいテン!)


(アホ猿のあの反応。やはりそうなんですわ)



再び頂きを目指す4人。


「大丈夫か?東条」


「誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」


「なんか、すまん。まさか西宮の料理がそこまでとは」


「絶対に言うなよ、あともう少し肩貸してくれ」


「おう」


「男子組。大丈夫か?」


先頭で歩く沙織が声をかける。


「あぁなんとか」


「全く、御使はともかく、下僕まで体力が無いのか?」


「ハハハすみません。お嬢様」


苦笑いで返す渉の反応をスルーし登頂する4人そして



「わー着いた!」


日が沈み始めた頃ついに登頂に成功した4人。


「綺麗だね!沙織」


「そうね。良くやったわ下僕」


「あっ、ありがとうございます。」


気が抜けたかのようにその場に座り込む渉。


「琢磨も東条背負っての登頂お疲れ様」


「おう………キツい」


(確かに綺麗な眺めだ)


(そうですわね)


(………琢磨はそれどころじゃ無さそうだな)


「ねぇ写真撮ろ!」


記念撮影をした4人は直ぐ下山。約束通り幹事の奢りで健闘を労い。思い出をまた1つ増やした。

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