第9話 水面に写る君へ
「夏だー!休みだー!!海だ!!!」
夏期の長期休みのある日、琢磨は3人と海水浴に来ていた。
「お前、この前追試まみれでこの世の終わりってテンションだったのに切り替え早いな」
「あれさえ終われば学生生活最大のパラダイス期間の始まりよ〜」
(海か………なんだかんだ始めてだな)
遡ること2週間前
「御使君よ、あと2週間後なにがあるかわかるかい?」
「なんだ東条突然。なにかあったか?」
「夏休みだよ、夏休み!!」
「そういえば、そうだな」
「えー、なんかテンション低くない?」
「特に盛り上がる要素ないだろ?」
「勉強という名の地獄を乗り越えた学生達に与えられる至福の時間………それが夏休みではないか!」
「あっそ」
「………なになに御使君。もしかして最近まで遊ぶ友達いなかったから満喫さしてないの?去年」
「………余計なお世話だ」
「図星のようだね。安心して今年からはこの東条渉が君に新しい世界を沢山見せよう」
「あーそう。それはありがとうございました」
「そんなにも感情の籠もってないありがとうは始めてだよ」
「でぇ、そのパーピーの権化である東条さんは何を教えてくれるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた!祭りに花火、山もありだがやはり定番は海!!」
「海!?なになに海行くのいつ?」
聞き耳を立てていたかのように美波が話に割り込む。
「なんだ北川聞いてたのか?」
「良いじゃん海!行こうよ!!」
「いいねー野郎だけで行くのと花があるのとじゃ大違いだ一緒に行こう北川」
「サンキュー東条!」
腕を付き合う2人に呆れる琢磨
「ねえ、沙織も行こー」
「その2人とは嫌。ろくな事にならないから」
「そっか………沙織と一緒に行きたかったなー」
「!!しょうがないわね。美波がそこまで言うなら」
「やったー」
沙織に鬼の形相で見られる琢磨。
(変な気起こすなよってことなんだろうな………)
「お待たせー待った?」
颯爽と水着姿で現れた2人。周りの人々も2人の魅力の虜になっていた。
「いや、丁度俺達も出てきたところだよ」
「2人ともめちゃめちゃ可愛い〜」
「そーおー?ありがとう!」
「下僕。」
「ハッ、お嬢様!パラソルセット一式とお飲み物用意出来ております」
沙織から呼ばれ即座に対応する東条。
「よろしい。流石は私の下僕だ」
「勿体無い御言葉。ご案内しますのでこちらへ」
「2人のあの関係続いてたのな」
「そうみたい。ハハハ………。ねえ琢磨、どう……かな?」
改めて美波を見て見惚れる琢磨
「似合ってるよ」
琢磨の頬が赤く染まる。
「そっか。良かった」
(おっ良い感じじゃないか!)
(…………。)
(!!背筋に悪寒が)
振り向くと沙織が今にも持っているグラスを力尽くで壊さんとしていた。
早速海ではしゃぐ一同
「あら、どうしたの?」
「疲れた」
暫くして琢磨はパラソルに戻った。
「えっ、まだ遊び出してそんなに時間経ってないと思うけど」
「運動苦手なんだ」
「まぁ………そう見えるわね」
「西宮は泳がないのか?」
「肌が焼けるの嫌なの」
「成る程な………」
「…………」
(気まずそうだなってテン!)
「西宮サンはおっ俺が嫌いかい?」
「あら?貴方がその話題を持ち出すとは、思わなかった」
不敵な笑みを浮かべる沙織。
「どうなんだ?」
「あなたに限ったことではないわ。あの子に寄ってくる男は基本敵よ」
「それ相応の理由があるとでも?」
「………随分挑発的な聞き方ね。」
琢磨(?)の質問に沙織の眉がピクリと動く。
「どうなの?」
「まぁいいわ。あなたのその度胸に免じて答えて挙げる。私は美波とは小さい頃からの仲だからよく見てるのよ」
「なにを?」
「あの子が人から裏切られて悲しむ姿を」
「!?」
「見ての通り無邪気で真っ直ぐな子だからね。おまけに容姿も良い。だからよく言い寄られて異性と付き合うことが昔からあるわ」
「…………」
「そして自分から言い寄っておいて、あの子の愛情の重さに耐えられず一方的にフラれる。そしてあの子は自分を責めて悲しむのよ」
「…………」
「そんなのを何度も見てるからね。でもあの子の無邪気で真っ直ぐな人柄は最大の魅力だから、それを失って欲しくない」
「だから、そうなる前に貴女が間に入って牽制すると」
「…………。厄介なのよね、あなたは」
「?というと」
「あの子が自分からあんなにアピールするの珍しいのよ」
「…………」
「だからあなたが半端な気持ちで美波に近づくのなら。私は許さない」
「そうか、わかった肝に命じさせるよ」
(命じさせるって他人事のように)
「あなた人の本音を聞いておいて………」
「本音?なんのことだ西宮」
突然の口調の変化に戸惑う沙織。
「!?いや、なんでもないわ」
「琢磨ー沙織ー一緒に遊ぼうよ」
美波が手を振り声をかける。
「………ほら行くわよ」
「えっ、あぁ」
微妙な空気のまま2人を待つ美波のもとえ向かう。
(テン…………)
(厄介な事を聞いてしまいましたわ)
(………琢磨を信じようぜ)
(そうですわね)
ここ最近積極的に琢磨の精神に干渉してきた2体は自らの行動を悔いた。
泳ぎよる競争、スイカ割り、砂遊び………遊び尽くした彼等気がつけば夕日の光が水面を照らしていた。
「下僕。疲れたわ帰るわよ」
「はっ、お嬢様」
沙織は、琢磨をじっ見ると足早に上がる。
(西宮?)
「………どうした?琢磨。キャ」
水飛沫が美波にかかる。
「なんだよいきなり!」
「どうだ?満足出来たか」
「うん·……。楽しかった。それにしても意外だったな、運動苦手の割に泳ぐの早いじゃん」
「小学生の頃少し習ってたからな」
「小学生の頃か………」
「どうした?」
「いや、ちょっと思い出しただけ気にすんな」
昔を振り返る美波の表情はどこか悲哀に満ちていた。
(あの子の愛情の重さに耐えられず一方的にフラれる。そしてあの子は自分を責めて悲しむのよ)
「美波!」
琢磨(?)は美波の手を握り締める。
「なんだ!突然」
「昔は昔!今は今。今を信じろ」
(ちょっとアクさん!なに訳わかんないこと)
「うん。ありがとう………ってなんからしくねーなお互い」
「………えっ、ちょなにすんだ北川」
「さっきの仕返しだこの野郎」
「なんか………楽しそうっすね」
「そうね………」
水面で無邪気に遊ぶ2人を先に上がった2人は微笑ましく眺めていた。
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