第5話 禁断の扉
「お前達にとっても大事な事情ってなんだ?」
琢磨の鋭い視線が2体に突き刺さる。
(そもそもだ、何故俺達が琢磨に憑いているのかを説明しないとな)
「ほぉー。約12年間の疑問が解決する訳だ」
思わぬきっかけで自分の理不尽な人生の原因がわかることになり、琢磨の表情は平静を装いつつ興味を隠しきれないでいた。
(まずはだ………この世界には『天使』と『悪魔』が存在する!……………なんだ驚かないのか)
衝撃の事実とインパクトをつけて話した天使(?)。だが琢磨の反応は味気無かった。
「お前達を連れてもう10年以上生きてるんだ別に驚きはない」
(それもそうか、でだ。この世界の天使と悪魔の役割は[生命の永続的な幸福の追及とその審判]だ)
「どういう意味だ?」
(つまり『人生の岐路に立つ生命を幸せな方向へ導くこと』それが俺達天使と悪魔の仕事なんだよ)
「随分壮大な仕事だな」
(普段は天使の長『天使長』と悪魔の長『悪魔長』が全ての岐路に立つ生命に対して審判を行い導いている)
「責任を2体に背負わせ過ぎだろ」
(故に御二方は絶大な権力を持つ。御二方の一存で人類を滅ぼすくらいにな)
「それは大袈裟だろ」
(強ち嘘では無い。過去に刻の権利者に下った審判が世界を破滅に追いやる寸前まで行ったことがある。この世界でいう2回の世界大戦、数々の経済危機、2次災害………人類の過ちの多くの決断を『天使長』と『悪魔長』は決断を迫り審判して来た)
「…………」
(けど、そんな重要な事を御二方が常に職務として全うするには余りにも負担がデカい。御二方への負担の軽減と時が進むにつれ顕著になる思考の硬直化による誤った審判の防止の為。人類時間で20年周期で両者共[世代交代]を行うんだ)
「世代交代?」
(そうだ。人類時間で20年『天使長』と『悪魔長』の候補者は特定の人間の精神に干渉し憑依者を幸福な人生に導く使命を持って憑依する)
「それがお前達」
頷く2体。アクと呼ばれている天使(?)は説明を続ける。
(ただ導くだけならそんな深刻な事でもないんだが2つ制約がある。1つが今俺達が犯している『憑依者の意思決定に干渉してはならない』。憑依者の人生は憑依者のモノであり、最終的に決めるのは憑依者だ。俺達はあくまで助言を与えることでしか導いてはいけない。それは将来的に『天使長』や『悪魔長』の職務を遂行する上での基本理念だからそれを学ぶ為のルールってところだ)
「………だからこれまでお前達は一方的に話しかけてくるだけで、実力行使はしてこなかったのか」
(………俺達はもっと距離を縮めている予定だったんだけどな、早い段階から琢磨が心を閉ざしてしまったが故に一方通行になっていたんだ)
「それで、もう1つの制約ってのは?」
(アクさん流石にそこに触れるのは)
これまで黙っていたテンと呼ばれる悪魔(?)はもう『一つの制約』に過敏に反応する。
(いや。これは今後に関わる事だから今のうちに話しておこう)
「今更勿体振るな」
アクはひと呼吸置くと琢磨に告げる。
(もし宿主20歳になった段階で『幸せな人生』を送れていなかった場合。俺達は存在が無くなるんだ)
「…………なんだって?」
流石の琢磨もその制約には驚きを隠せなかった。
テンは顔を横に反らす。
(1人の人生に責任を持てないモノが人類の命運を担う職務を遂行するのは困難だと断定され、その存在に価値無しとして消されるんだ)
思わぬ発言に事態が飲み込めない琢磨。
(あっ流石に琢磨でもこの事実は予想外?)
天使の姿の『アク』してやったりと言わんばかりにニヤつく。馬鹿にしているのかと思う琢磨であったが、悪魔の姿をした『テン』が俯いたままの様子から察する。
(ってことであと3年で俺達は琢磨。お前を導く必要があるから。よろしくな明日)
「おっおい」
姿を消す2体。琢磨の人生は思わぬ形で自分だけのモノでは無くなった。
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