願いが魔法になる世界(2)
招かれるままに家に入り、三人が窓際の小さなテーブルに着席する。
リナと名乗った少女は、優雅な所作でそっと四人分のティーカップを置くと、三人の向かいの席に着いた。
「さて、何から話そうかしら? まず、この世界のことだけれど……」
「あの、っ」まず口を開いたのはイツキだった。
「僕たち、この世界に転生しちゃった、ってことですか? その、現実の世界で、死んじゃったから……」
「ええ、言いにくいことだけれど、それは間違いないわ。私も、交通事故に遭って、気が付いたら……この世界に居たの。ここにいる人たちは、みんなあの世界で死を迎えてから、この世界に来ている……」
やっぱり、とイツキは目を伏せる。
シュウはそう落ち込むな、とでも言いたげに、イツキの背中をばしばし叩いている。ちょっと痛そうなくらいに。
「あっ、ごめんなさい。落ち込ませたくて言ったわけじゃないの。……でも、この世界も、とってもいいところよ?」
リナはお茶菓子のクッキーを軽くかじって、優しく微笑んでみせた。
「この世界にはね、『魔法』があるの。心で願ったことが、世界を変える魔法」
「まほう……?」
「ええ、魔法。例えば……」
と、リナがティースプーンをつまみ、魔法の杖のようにくるくると振って見せる。
すると虚空にきらきらと光が集まっていって……。
ぽん、と光が弾け、空中に、角砂糖がみっつ、よっつ、形を成した。それがとぽん、とぽん、と彼女のティーカップに落ちる。
シュウがおおー、と声を上げた。ユイは目の前の魔法使いに拍手を贈ってみせた。
イツキは何も言わなかったが、それでも目を輝かせている。
「もちろん、何でもできるわけじゃないけどね。大きなものを作ったり、複雑なことをやろうとすれば、相応に練習は必要になるわ」
「難しそうですね……私たちにも、できるかなぁ」
「ええ、きっとできるわ……あら」
部屋の奥で、がしゃん、と音がした。
見れば、小さな花瓶が割れ、中の水が床に飛び散っている。その上空を、さっき見たような羽付きのトカゲがぶんぶんと飛び回っているのが見えた。
「はぁ、お気に入りの花瓶なのに。困るわねぇ」
そういうと、リナはティースプーンを手に、部屋の奥へと歩いて行く。
「片付け、手伝うっすよ」とシュウが駆け寄って言う。
「もー、女の子には優しいんだから」とユイが茶々を入れる。
「いいのよ、気にしないで? それよりも……」
リナは手にしたスプーンで、棚の端で止まっているトカゲの頭を、こつん、と叩いた。ぱちぱちっ、とトカゲの頭上で光が弾ける。
「いたずらっ子のトカゲさんとは、『なかよし』になっておかないとね」
頭を小突かれたそのトカゲが、リナの指をよじ登る。それは彼女の指から飛び立つと、その手の上をぶんぶんと飛び回っている。
「この世界では、心が形になる……逆に言えば、全てのものが『心』でできている、と言ってもいいの。もちろん、私たちのような生き物も」
割れた花瓶を復元させながら(恐らくこれも魔法なのだろう)、リナがつぶやく。
「だから、魔法の力を使えば、簡単に誰かと仲良くなることもできるわ。使い方を考えないと、ちょっとだけ危険だけれどね」
「おや、俺はもうリナさんの魔法にかけられていたんですね」
「やめなよお兄ちゃん」
それを聞いて、リナはふふ、と小さく笑った。
「もちろん、悪用はしちゃだめだけれど……言い換えれば、この世界では武器を持って争いあう必要はないの。自分の身を守るために、誰かを傷つける必要がない世界」
イツキがうんうん、と頷く。
「それって、とっても素敵だと思わない?」
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