第3話

 次の週も彼女は同じ席でパラパラとページを捲っていた。

 好きな人の近くに無言で長時間いても、何の違和感もない図書館は本当に素晴らしいと改めて感じる。

 おそらく読めないであろう本を適当に何冊か取り席へ向かうと、彼女がはっと顔を上げニコッと会釈をしてきた。

 嘘だろ。

 視界のあちこちがチカチカして、心臓のボリュームはマックスになっている、何とか平静を装い軽く微笑んで会釈を返す。顔を覚えられているなんて思いもしなかった。

 想いが増すきっかけなんてこんな些細なことなのだ。ありきたりな言葉でこの膨らんだ想いを言い表したくはないが、でも、もう、彼女のことが、大好きなのだ。

その次の週も彼女は同じようにそこにいて、俺も同じ席に着き会釈を交わした。勿論それ以上は何もない。でもそれで十分だった。互いの呼吸の音を感じられる距離にいられるだけで十分だったのだ。

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