第2話
その日もいつものように読みたい本を何冊か選び、お気に入りの席に向かっていた。
入口からも本棚からも程よく離れた食卓テーブルの様な四人掛けの席は、この時間ほとんど俺一人が占領している。少ない図書館利用者の中でわざわざその席を選ぶ人は今まで一人もいなかったが、驚いたことに先客がいた。習慣を崩すのは嫌だったから、不本意ではあるが先客がいる席に向かった。
どんな人が座っているのか一応確認しようと横目でその席を見た瞬間思わず息を呑んだ。美しく照らされた黒いロングヘアー、文字を追う真剣な瞳、そして何よりも、白い細い指がページを捲る度に生み出される、俺の耳にダイレクトに届く様な柔らかで美しい音色。
反射的に好きだと思った。
今まで生きてきて初めて体験する感覚が脚を震えさせる。
膝から崩れ落ちずに席まで辿り着いた自分を褒めてやりたい。席に着き本を開いたが、結局その日は終始、斜め前の席から生まれるページが捲れる音や小さな咳払いの音が気になって、自分の鼓動の轟音が図書館中にも響き渡っているんじゃないかと心配で全く集中できなかった。
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