夢音

小林

第1話

 ビリッと電流が走った様に二人の手が離れた。

 しかし視線は、そこだけ時間が止まったかのように絡み合って離れることはない。

 思わず息を止めた俺に聞こえたのは、俺自身の鼓動の音だけだった。


 俺はこの街に引っ越してきてから約二年間毎週木曜日の午後、この図書館を訪れている。図書館は俺がこの世で最も好きな場所だ。

 紙の匂い、過ごしやすいように設定された室温、晴れの日に大きな窓から差し込む光……挙げれば切りがない。でも、一番良いところは何かと問われれば間違いなく、一切他者と言葉を交わさなくて良いところだろう。

 好きな世界を一人で選び、扉を一人で開け、一歩足を踏み入れればそこからは外の世界から隔離された、平穏な俺一人の世界が始まる。

 そんな安定した俺の日常が良くも悪くも揺らいだのは一ヶ月前の話だ。

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