17 腐人の行進-準備~開戦-1


 倉庫から師匠の異空陣ディフラントスペースにHP回復薬を詰め替える作業の後は、量産品のHP回復薬の作成を黙々と、こちらも10分弱行った。

 で、残りの10分弱だがこれはもう完全に冒険者ギルドへの回復薬の移動に費やす。


 という事で師匠を伴って移動するので少し遅いが、いつもは2、3分で移動できるので5分ぐらいで辿り着くだろう。

 少しするとたくさんの人が慌ただしくしているのが見えてきた。それを見ながら冒険者ギルドへの残りの道を歩く。


 完全に騒動の真っ只中となっている冒険者ギルドが見えてきたところで師匠に話しかけられた。


「……お前さんは先に行ってあのバカに受け入れ準備をさせとけ」

「分かりました」


 あのバカとはサウェトールさんの事だろう。この二人の関係性がイマイチ見えてこないが、今はそれを気にしているような状況ではないから後回しだな。

 師匠に頼まれた後すぐさま冒険者ギルドまで走り、受付の人にサウェトールさんを呼ぶように言った。すぐに呼びに行ったので少しもせずに来るだろう。

 と思ったところでほんとに直ぐ来たようだ。


「おう来たか。あの婆さんはどこだ?」

「今はギルドまであと少しのところを歩いてます」

「成程。情報伝達役として先に来させられたわけか。そんなもんしなくてもお前さんに頼んだ少し後にはもう準備は整ってたけどな。で、この空き時間に訊くがあの婆さんはゾンビについて何か知ってたか?」


 そう訊かれたので回復薬の運搬中に聞いたことをそっくりそのまま話す。


「えーと確か、詳しくは知らないがあの場所は昔墓地だったとか。犯罪者用の。それ以上は詳しく知らないそうです」

「俺もこの20分で出来る限り調べたが、どの本にもそんな記述はなかったけどあの婆さんが言うからにはホントの事なんだろうな」

「ギルドマスターさんがそんなに“あの”っていう師匠ってどんな人なんですか?」

「ん? お前さん知らないのにあの婆さんの弟子になったのか?

 まぁいい、あの婆さんはな――」


 そこまでサウェトールさんが言った所で、何やら危ない雰囲気を感じたのでギルドの出入り口を見てみると師匠が着いていた。毎回師匠の正体に関することで核心と思われるところまで言った所で、師匠が現れるんだよな。生産者ギルドの1件然り。

 惜しいがサウェトールさんがあのような事にならないよう口を挟むか。


「サウェトールさん、師匠が着いたようです」

「ん? あぁ、ほんとだな。よーし! お前ら! そこの婆さんが出す回復薬を南門の手前まで運べ!」


 ギルドの中にいた冒険者の人たちにサウェトールさんが声を掛けると、それに合わせて師匠が白い渦を出した。

 何もしないのはあれなので、異空陣から回復薬を取り出すのを手伝うとするか。師匠1人では運ぶ人数に対して取り出す量が間に合っていないからな。



     △▼△▼△


 異空陣に箱のまま回復薬を入れたからか数分で取り出し終わった。

 現在は南門の手前で篝火を焚きながら、ゾンビの動き出しを待っているところだ。ゾンビの動きを待たずに先手を打ち森に向かおうとする意見もあったがギルドマスターのサウェトールさんともう1人、騎士のような人のゾンビを待つという決定により意見が潰されていた。


 この暇な数分を使い掲示板を覗いてみたが、殆どがお祭り騒ぎのような感じになっていて情報を知ることすらできそうになかった。一部の真面目なような投稿もそのお祭りに埋め尽くされていたからだ。


 と、その様にして時間を潰しているとワールドアナウンスが届いた。


==========


ワールドクエスト『腐人の行進』

世界各地のゾンビの集団が森というダムを破壊し行進を始めました。


==========


 この情報にプレイヤーは声を上げたが、傍から見ていると異常者集団の様だ。現に周囲のNPCは、急に声を上げたプレイヤーに対して奇怪きっかいなものを見るような眼をしている。

 だがやがて見張り台の兵士からゾンビの集団の確認がされると、その情報が下にいる兵士たちや冒険者たちに広がっていき、戦意を漲らせていた。


「よーし! お前ら! ゾンビの集団が森を出たようだ! 早速殴り込みに行きたいが役割を振り分ける。フレイトゥル王国第三騎士団長様がな!」

「紹介に預かった、フレイトゥル王国第三騎士団団長を仰せつかっているリメトエルだ。此度の防衛には異邦人の方々も参加してくださるとのこと。感謝する。

 それでは此度の防衛線の振り分けだが、最前線は異邦人の方々に張ってもらう。そしてその最前線のサポートに冒険者を。最後に防壁の防衛を我ら第三騎士団が引き受ける。無論、術師職の者には後ろで攻撃してもらう。以上だ」


 少しぶっきらぼうな所があるがその判断は合理的だろう。死んでも死なないプレイヤーを最前線に置き、しかしそのプレイヤーはこの世界にきて数日。現実世界では約7時間30分。なのでそれをサポートするために住民の冒険者を付けるのだろう。そして街の防壁、つまり街の全体的な防衛に集団戦闘に慣れているであろう騎士団を配置する。合理的だな。ぶっきらぼうだが。“ぶっきらぼう”だが! 大事な事なので2回言っておいた。2回目を強調して。

 一部のプレイヤーはそのぶっきらぼうで上からの言葉に反論したそうにしていたが、周囲の仲間らしきプレイヤーが抑えていた。


 と俺がつまらないことを考えている間にプレイヤーたちは移動を開始していたようだ。

 補給部隊のテントでHP回復薬を受け取る人は受け取り、そのまま南門から出て思い思いのところに散らばって行っている。

 俺はどうするか。魔力に関しては師匠の店から移動する前に下級MP回復薬を2本貰い、飲んであるからほぼ満タン。だが剣も使いたいから、初めの方は剣で攻撃しに行き、後半は様子を見て前線が大丈夫そうなら水術での攻撃に切り替えようか。


 俺がもう少し前線の方にと歩みを進めていると森の闇から這い出るかのようにゾンビが見えてきた。それと同時に鼻を突くような腐臭が漂ってきた。


 周りのプレイヤーが俺同様、腐臭に顔を顰めていると段々と距離を詰めてきていたゾンビの集団が唐突に走り出し、急速に距離を詰めてきた。ゾンビの走りだからこそか意外に進みは遅かったがそれでも50m、40mと着々と詰めてきていた。

 俺たちの前にはタンク系のプレイヤーたちがいるが、そのプレイヤーたちも腐臭を嫌ってか動きが悪い。


 こんな状況でまともにタンクが攻撃を受けられると思わなかったので、自分の近くのゾンビを少しでも減らすため、剣から杖に持ち替え仕方なく水術すいじゅつを発動する。

 選択する術は錬金で魔力を使っていたからかそれに付随して2つ上がり、Lv.5になった時に覚えた水矢陣とする。


 杖を構えて、水矢陣を選択すると杖の先に半径35㎝ぐらいの白い術陣が出てきた。

 それに慎重に、それでいて素早く満遍なく青い水属性魔力を流し込みながら詠唱する。


「全ての水を司る神よ。この矮小なる身に力を与えたまえ。全てを貫く、貫通の水の力を。」


 詠唱が完了すると同時に術陣にも魔力が込め終わり発動待機の状態になり、あとは術の名前を紡げば、


 ――水矢陣ウォーターアロー!――


 術陣から零れるように5本の水の矢が形成され、杖を振るうとそれに追従するように水の矢が発射され、5体のゾンビの心臓部分に命中した。



――――――――――


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