第1節 W-1 『腐人の行進』

4 魔王国


 俺が受けたクエストがワールドクエストだったのだが、それの考察は後回しだな。

 ついさっきたどり着いたのは始まりの場所から数十分ほどの位置にある、立派な屋敷だった。


「ここは? どういう場所で、俺は何を手伝えばいいんだ?」

「異邦人達に情報を流さないと誓うのなら教えよう」


 情報を漏らさなければいいだけ、か。

 まぁ情報を漏らさなければこのクエストが進むのであれば、それに従うか。


「分かった。他の異邦人達には何もしゃべらないと誓うよ」

「そうか。では教えるとしよう」


 そう言って外套を脱ぎながら、いろいろ説明してくれる。


 まず名乗らないことには諸々が進まないと言って名前を教えてくれた。

 といっても俺には途中から『ピー音』が入り、『アセヴィル・――――・――――』としか聞こえなかったが。


 そのあと俺も名乗り返し、呼び捨てでいいと言ったら向こうも呼び捨てでいいと返してくれたから、お言葉に甘えて呼び捨てにしようかな。


 で、アセヴィルはこの国から見て西のほうの魔砂漠にある国、『ユトゥル魔王国』の元王子だという。

 まぁ、そのユトゥル魔王国は今となってはもうヒト魔族が1人もいない土地になってしまって国と呼べるものはないそうだが。……誰一人としてヒトが居なくなった原因は分かっているが、何故その原因がユトゥル魔王国を狙って攻撃?してきたのかは分からないそうだ。



 少し話が逸れるがアセヴィルの顔は生気がないというか、なんて言うんだろうな。感情が感じられない? なんか、そんな感じの顔だ。親近感を覚えるんだよなぁ。

 少しこのことについて聞いてみるか。


「なぁ、1つ聞いてもいいか?」

「答えられることなら答えるが」

「なんでそんなに感情が感じられない顔なんだ?」

「感情が感じられない顔?」

「そう。なんていうのかな、表情はあるんだけどその中に感情が籠ってない気がするんだよ」

「そう感じるのか。

 まぁいい。その質問に対する答えは、つい先ほど説明したとあるモノに全ての感情が吸い取られているからだ。

 そしてその吸い取られた感情はそのとあるモノの中で霊力となって俺の中に戻ってくる」

「ふーん、そうなのか。

 で、そのとあるモノって言うのはやっぱり教えてくれないのか?」

「先ほども言ったがそれを今、教えることは出来ない。

 またその内いつか教える時が来るから、その時に教える」


 そう言って会話を打ち切ったアセヴィル。

 感情を代償に力を増やしてるのか。

 それにしてもいつか教える時が来るって言っているが俺にはいつまで経っても教えないと言っているようにしか聞こえないな。



 と、話を戻さないといつまでも話が進まないな。

 どこまで振り返っていたんだっけ? えーと、邪神の話だったか? いや、違うか。邪神の話より少し前の、魔王国に住むヒトが誰一人として存在しなくなった話の所か。


 で、魔王国のヒトがアセヴィルを除いて誰一人存在しなくなった原因については判明しているとアセヴィルが言っていた。

 その原因とは、この世界とは違う次元に存在すると言われている邪神『終末』の仕業だという。

 その存在はこの世界に存在するすべてのモノを消滅させるのだとか。


 ではなぜアセヴィルが『終末』に消滅させられなかったかと言う話だが、その原因はほんのちょっと分かっているらしいが、それは教えてくれなかった。


 魔王国に住むヒトが消滅させられたと言っても、それは肉体だけで精神は消滅させられてなかったんだと。

 なぜそのことが分かったかって話だが、ついさっき言っていた『とあるモノ』の効果で精神乃至ないし魂が見えるようになったから、とかなんとか。


 『終末』に消滅させられなかったアセヴィルは、魔王国跡で様々な準備をして数十日前に旅立ち数日前、この国“フレイトゥル”の首都王都“シグニラス”にたどり着いたんだと。

 そして、今日の夕方まで次の目的地に行く準備をして、このお屋敷に戻ろうとしていたところで俺がアセヴィルを鑑定して、その行動を見ていてなんとなく勧誘しようという気持ちになったんだとか。


「あぁ、そういえば。此処のことについて説明していなかったな」

「そういえばそうだな。教えてもらってなかったよ」

「すまないな。此処はこの国が用意した魔王国大使館の地下室だ。

 大使館自体は昔の『フレイトゥル』上層部が用意したものだが、地下室は魔王国が造ったものだ」

「ふーん、そうなのか」


 この場所が秘密の話をするのに向いているのは分かったが、そんな場所に俺を入れても良いんだろうか?

 ……良いんだろうな。じゃないとそもそもれないよな。



 えぇと、アセヴィルが俺に話しかけてくる前にしていた行動が今日以前の物事で、これから思い返すのが“これから”のことだな。


 今日以前の事を話したアセヴィルはこれからのことを話し出す前に俺を勧誘したことで変更になったところを話し出した。

 俺がアセヴィルについていくことで変更と言うか追加になった点は、移動の速さとイズホ自身の強化等々、主に俺のせいで、と言うか全て俺のせいで追加になっている。


 これを覆すには俺がただ強くなればいいらしい、が俺の何倍もの強さを持っていそうなアセヴィルが居るのに俺が戦闘するような機会は訪れるのか?

 疑問に思ったことがあればいつでも質問をしていいと言われてたから聞いてみたんだったな。その時の応答の様子が、


「なぁ、強そうなアセヴィルが居るのに俺が戦闘をする機会なんて訪れるのか?」

「ん? あぁ、そのことか。それについては安心してくれ。

 これからの移動時、俺は極力敵に対して攻撃をしない。その代わりイズホが戦闘をしてくれ。

 ただし、イズホが危なくなったと俺が判断したら介入するから倒せなさそうでも安心してくれ」

「俺だけで戦闘をすると。そしてアセヴィルの“主観”で俺が危なくなったら助けに入ると。

 大丈夫なのか? 現実世界の俺は戦闘経験なんてものは無いし、武器も持ったことがないんだぞ? そんな人物を最初から1人で戦わせるのか?」

「現実世界? ……あぁ、異邦人達の世界の事か。

 で、イズホは戦闘に心配があると。大丈夫だ。

 この近くの森や火山の麓には俺が20歳ぐらいの頃に苦戦したぐらいの魔物まぶつ聖物せいぶつとほんの少し強い魔物、聖物しか存在しないから、俺が助けに入ればすぐに終わる」

「ほんとに大丈夫か? 特にほんの少し強い魔物、聖物が懸念なんだが」


 こんな感じだったな。

 最後は俺が折れることで話を終わらせたが、ほんとに大丈夫なんだろうか?

 まぁ、戦闘に関してはその時その時に考えるとしようか。テンパって落ち着いて考える時間があるかは置いといて。

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