第2話・偽夢?誤夢?

 ライブは休憩を挟んで、後半へと進み。

 メロディのエレキギターソロ演奏から入る、最後の曲へと入る。

 このラストソングが終了すると、ステージに演出の銀テープと紙吹雪が舞う手はずになっていた。

 ステージを照らすライトと会場の熱気、ドリームの額に汗が浮かぶ。

(暑い……)

 突然、歌い踊っていたドリームの意識が遠退き、ドリームの体がステージ上に倒れる。

 倒れる瞬間、ドリームは自分の体がスローモーションで転倒していく感覚がした。

 頭部を打って薄れていく意識の中でドリームは、会場の悲鳴と、曲のラストで演出発射されるはずだった。

 銀テープと紙吹雪が、倒れた体に降りかかってくるのを感じた。


  ◇◇◇◇◇◇


 童夢が気づいた時、製作会社の食堂の隣にある、和室の休憩室に敷かれた布団の上に、作業着姿で寝かされているのに気づいた。

 扇風機が回る部屋で、童夢は絆創膏が貼られて痛む額を擦る。

(ここは?)

 タオルケットが、かけられていた上体を起こすと、近くでスマホを操作していた職場の同僚──

ポニーテール髪の愛理あいりが、心配そうにクーラーボックスに入っていた、ペットボトルの冷たいお茶を童夢に差し出して言った。


「大丈夫? 突然、倒れたからビックリしちゃった……幸い旋盤機の上に倒れたんじゃなくて、額を床に打っただけだから良かったけれど……ムリしちゃダメだよ」

(あぁ、そうだった暑さで意識が薄れて……それで倒れて)

「班長さん、今日はもう帰っていいってさ……念のために、病院で検査してもらった方がいいよ……それじゃあ、あたし仕事に戻るから」

 そう言って、童夢の近所に家族と一緒に住む愛理は休憩室を出て行った。

 冷えたお茶で、喉を潤した童夢は立ち上がり、着替えてタイムカードを押して早退した。


  ◇◇◇◇◇◇


 ライブ終了の移動中のマイクロバスの中──私服で額に絆創膏を貼ったドリームは、暗くなってきて窓ガラスに映る自分の姿を見ていた。

 運転をしているグレースが言った。


「大変だったんだから、なんとかライブは成功したけれど……ドリームが暑さで倒れた時は、本当に驚いたわよ。明日は休んでいいから、病院の精密検査に付き添いで行ってあげるから」


 無言でガラスに映る、自分の姿を眺めているドリーム。

 自分の姿が、作業着姿に変わる。

(えっ!?)

 メンバーの中で、一人だけ汚れた作業着を着て、座っている様子がガラスに映っている怪異……ドリームは、咄嗟に自分の手を確認する。

 機械油で汚れた女の子の手……とても、アイドルの手とは思えない爪の隙間にまで、油が染み込んだ手。

 ギュッと強く目を閉じてから、もう一度自分の手とガラスに映っている姿を確認すると、ドリームの姿はいつものアイドル私服にもどっていた。

(なに? 今の?)


  ◇◇◇◇◇◇


 童夢は、アパートの自分の部屋でタブレット端末を使って、離れて住む母親と会話していた。

 壁際にハンガーに吊るした作業着が、開けた窓から吹き込む夜風に揺れる。

 ちゃぶ台のような低いテーブルの脇には、鍋で調理して鍋を食器代わりにして食べた、即席麺の残りがあった。

「大丈夫だって、お母さん……少しフラついて転倒しただけだって」


《本当に大丈夫? 会社から娘さんが、職場で転倒しましたって専務さんから電話を受けた時は、ビックリしちゃったわよ》

「うちの製作所の専務は、少し大袈裟なんだって」

《それならいいけれど……何かあったら家に帰ってくればいいからね》


 母親との通話が終わった童夢は、顔を洗うために洗面所に行く。

 冷水で顔を洗い、タオルで顔を拭きながら鏡に映る自分の姿を見た童夢の動きが止まる。


 そこに、アイドルのようなステージ衣装を着て、ヘヤメイクをした童夢の姿が映っていた。

「えっ!?」

 両目を手で擦って、目を開けると。いつも通りの古着の衣服を着て立つ自分の姿が映っていた。

「なに? 今の?」


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