第80話 【深淵】想い繋げて(4)


「美月は〈ランサー〉に変身してくれ! 白愛はそのままでいい!」


 俺は――と言って〈トロール〉と〈モンク〉のカードを構える。同時に拳銃型のデバイスを取り出すと〈ダークアーマナイト〉のカードをセットした。


 そして、引き金トリガーを引く。魔力の制御――〈オド〉と〈マナ〉のあつかい――については、なんとなくだが理解できてきた。


 カードの作成時には使用者の魔力である〈オド〉を必要とするのだろうが、今回は初期化だ。大気中にある周囲の〈マナ〉も利用することが可能だ。


 白愛であれば、気にすることはないのだろう。

 彼女の持つ魔力だけで、初期化は完了する。


 だが、俺の場合はこういった細かい制御コントロールを行わなければ魔力が不足し、後々の戦いに響いてしまう。


 現状、この空間には多くの〈マナ〉が存在しているようだ。

 それらを上手く利用して〈ダークアーマナイト〉のカードを初期化する。


 当然、カードの魔力を感知して攻撃してくる巨人には――ここをねらってくれ!――と言っているようなモノだ。


 急がなくてはいけない。だが、あせってもいけない。


(俺の推測が正しければ、このカードが起死回生の『切り札』になるはずだ……)


 最初は『青のクラスブルー』で〈ナイト〉だと思っていた。

 だから、このカードを重要視してはいなかったのだ。


 しかし、黒い魔法少女は、このカードをうばった。

 確かに〈ダークアーマナイト〉のクラスは強力だ。


 相手に渡したくはない――と考えるのもうなずける。

 実際に〈クリスタルゲイザー〉の魔法少女は換装し、優位に戦いを進めた。


 だが、それは結果でしかないのかもしれない。どうにも〈深淵アビス〉はゲームシステムのような法則で成り立っているような気がする。


 いや、それは逆でなにかの法則にもとづいて発生しているから――ゲームのようになっている――と考えるのはどうだろうか?


 〈深淵の渦アビスゲート〉の特性は魔法少女をつかまえるためにある――と思っていたのだが、白愛は戦いをて強くなっていった。


 最初の内は『それが白愛の才能だ』と思っていたのだが〈深淵アビス〉は魔法少女を強くする一面も持っているのかもしれない。


 元々ステージ制のような進行にも、違和感があった。それに、雪都さんから聞いた話によると――『魔王災害』は自然現象だ――という話だ。


 ここからは、やや強引な推測になるが――〈深淵アビス〉とは『魔王災害』を制御コントロールしつつ、魔法少女の成長をうながすための場所――ではないだろうか?


 まるで、俺にとっての澪姉である。

 つまりは何者なにものかの意思があり、試練として存在するのであれば――


「くるよ!」


 と白愛。巨人は再び、槍で攻撃するつもりらしい。

 美月は俺の指示にしたがい〈ランサー〉へと換装する。


 無駄とは分かっているのだろうが、白愛は〈スノーボール〉をった。

 当然、あの巨体には意味がない。


 恐らく、上位クラスに変身しなければ、こちらに勝機はないだろう。


「ついて来い!」


 と〈モンク〉に変身した俺は白愛に命令する。

 また、同時に美月はきかかえた。


 目を離すと無理をするに決まっているからだ。


「彼方? その姿は……」


 白愛の質問に対し、俺は答えようとしたが――再び、床から槍が出現する。

 床が吹き飛び、瓦礫がれきが舞う中、俺は〈オーラハンド〉を使用した。


 このままでは、いずれ床がなくなってしまう。

 また、そんな状況で気を失っている魔法少女たちを守りながら戦うことは難しい。


 活路を下の階層フロアに見出し、槍へと飛び移った。

 逆に相手の武器を利用させてもらう。いつもの作戦である。


 〈オーラハンド〉は本来なら攻撃用の魔法だ。

 しかし、俺は出現させた巨大な腕を足場として利用する。


 美月をかかえているため、両手がふさがっていたが、ある程度は自由に動いてくれるようだ。これなら問題ないだろう。


 そのまま槍をつたって、下の階層フロアへと降りることにした。

 当然のように、白愛もついて来てくれる。


 巨人は身体が大きい分、小回りの利く、こちらの動きには反応が遅れるようだ。

 このまま垂直に落下することも考えたが、直線上の動きは予測されやすい。


 縦だけではなく、横への移動も行う。

 そこから急に落下し、視界から消えることも忘れない。


 コツは〈オーラハンド〉を緩衝材クッション代わりに使用することだ。

 結果、巨人の身体をグルグルと回るような移動になってしまった。


 だが、そのお陰で動きに緩急かんきゅうが生まれる。

 相手も、こちらをとらえられずにいるようだ。


 『虎穴に入らずんば虎児を得ず』の言葉の通り、死角となる場所があることも把握はあくできた。問題はやはり――攻撃が通用するのか?――だろう。


 巨人の身体をつたうことで、なんとか下の階層フロアへは到達することができた。

 流石さすがは〈モンク〉である。〈ニンジャ〉ほどではないが、身体が軽い。


 こんな状況でなければ――面白い遊具だった――と考え、なにかに応用できないかと頭をひねっていたかもしれない。


 俺は着地すると同時に、新たに得たクラス――〈クルセイダー〉へと換装する。

 〈ダークアーマナイト〉が初期化されたクラスだ。


 戦闘向きの『白のクラスブラン』といえた。

 ゲームでは回復系の魔法が使える他に、防御系のスキルも使用できる。


 汎用性の高いクラスだ。

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