第81話 【深淵】想い繋げて(5)


「それが逆転するためのカードなの?」


 と追い付いてきた白愛が後ろからのぞき込み、首をかしげる。

 どうやら、さっきの美月との会話を聞いていたようだ。


 残念ながら、あの巨人相手では有効とは言えない。

 俺は首を横に振りつつ、移動をうながす。


 一点にとどまっていては、攻撃のまとになってしまう。


「〈レア〉と呼ばれているクラスがあるらしい……」


 ネットの書き込みなので真相は定かではないが――試してみる価値はある――と思っていた。根拠こんきょという程のモノではないのかもしれない。


 だが〈スナイパー〉に対して〈ナイト〉のクラスが有効だったように、〈クリスタルゲイザー〉の使う影の魔法には〈ウルフ〉できょくことができた。


(これは偶然だろうか?)


 もし〈深淵アビス〉に意思があって『魔法少女をみちびいている』と考えた場合、このカードにも役割があるはずだ。


「条件をそろえることで、変身が可能みたいだ……」


 俺の言葉に、


「それが、そのカードなんだね☆」


 と勘のいい白愛はすぐに気が付く。

 肯定したい所だが、俺も推測でしない。


 しかし、今はわらにもすがる心境だ。状況証拠でしかないが――特定のクラスカードをそろえる必要がある――と考えていた。


 それが〈フェアリー〉〈ランサー〉〈クルセイダー〉のクラスカードだ。

 取りえず、変身はしてみたが、これだけではなにも起こらないようだ。


「で、どうすればいいの?」


 白愛は俺ではなく、美月を見る。だが、美月もキョトンとしていた。

 鍵となるのは恐らく、俺の魔装に搭載された〈リンカーシステム〉だろう。


 互いに魔力をつなげることで『一時的にお互いの魔力を強化パワーアップできる』というシステムだ。


 当然、複数の魔法少女をそろえる必要がある。つまり単体では役には立たないため『現状では使えない』と評価されていたらしい。


 だが今は、このシステムだけが頼りだ。

 俺は走りながら、美月と手をつなぐ。


 接触する必要はないが魔力の波長を合わせる必要があった。

 ぶっつけ本番となるので『念のため』といった所だ。


 美月との共鳴に成功したのか、魔力による淡い光が彼女を包み込む。

 しかし、これでは出力が弱い。もう少し合わせる必要がある。


くすぐったい」


 と美月。魔力を見ることができる俺とは違い、肌などを使って感じているのだろうか? どうやら、この手の魔力干渉には敏感びんかんらしい。


 ほほを上気させ、モジモジとしている。

 なんだか、イケないことをしている気分になるのでめて欲しい。


「彼方のえっち~♪」


 とは白愛。ここぞとばかりに俺を揶揄からかうのはめて欲しい。


「いや、こうやってお互いの魔力の波長を……」


 俺が説明しようとすると、急に美月の目が鋭くなった。

 巨人に動きがあったようだ。


 死角に入るように移動していたのだが、魔力で感知されたらしい。

 頭上から巨大な剣が振り下ろされる。


 仕方なく手を離すと、俺は魔力の共鳴を解除した。

 俺と美月は前方へと転がるように回避する。


 だが、攻撃はそれで終わらない。

 今度は斧を振り下ろす動作をしている。


 あんなモノを喰らっては、真っ二つというよりも、威力がありすぎて挽肉ミンチになってしまう。


 俺たちは急ぎ飛び退くも、分断されてしまった。

 一緒の方向に逃げたのでは、敵のいいまとにされてしまうので仕方がない。


 目の前に振り降ろされた斧の威力は爆撃のようで、今は俺と美月をへだてる鉄の壁として存在していた。


 流石さすがに腕が4本もあるのは厄介だ。

 これではシステムを起動させるどころではない。


 やはり、気を失っている魔法少女たちを逃がすのが先だろう。

 塔の中で戦うより、遠距離からの攻撃に切り替えた方が良さそうだ。


 一息ひといきひまもなく、床に向かって槍が突き立てられた。

 槍といっても、その大きさでは砲弾と変らない。


 突き刺さった槍の衝撃波で、俺はゴロゴロと転がる破目になってしまう。

 見通しが甘かったようだ。正直、倒すのはあきらめて撤退てったいしようとも考えたが、


「大丈夫ですか?」


 と聞き覚えのある女性の声が響いた。


「先生に相談しないで、こんな所に来るから……」


 大変な目に合うんですよ!――と注意される。

 目の前にいた女性は花園先生だった。


 いつものスーツ姿ではなく、メガネもなければ、三つ編みにもしていない。

 法衣をまとった『聖女』のような格好をしている。


 その姿だけでは、すぐには先生だと気付くことはできなかった。

 助けに来てくれた――という感謝の気持ちがある所為せいだろう。


 『聖女』と表現したのは、どこか神々しさを感じてしまったからなのかもしれない。同時に俺自身も、余裕をなくしていたことに気が付く。


「雪城さんたちも、大丈夫ですか?」


 立ち込めていた砂塵が晴れ、美月が無事であることは分かった。

 白愛は突き刺さった槍の向こうにいるようで、視認できない。


「えっ⁉ その声は……ノノちゃん先生?」


 なんでいるの?――と白愛の声が聞こえた。

 どうやら、無事なようだ。


(良かった……)


 俺は安心する。

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