第79話 【深淵】想い繋げて(3)


 俺はあらためてカードを確認する。

 美月からあずかっていた〈トロール〉と〈モンク〉のカードも浄化されていた。


 白愛のそばにいた、お陰だろう。

 〈イレイザーシステム〉が上手うまく機能してくれているようだ。


「わたしが、やる……」


 とは美月。俺が持っていた〈トロール〉と〈モンク〉のカードを手繰たくるようにうばい取った。


 最初から返すつもりだったが――戦わなくていい――という俺の台詞セリフを恐れたのだろう。


 彼女はまだ、自分の存在価値が『魔法少女であることだ』と思っているらしい。

 美月は再度、カードを使って変身をしようしたが、俺はそれを手で押さえた。


 現状では美月をこれ以上、酷使こくしするつもりはない。

 再び、彼女からカードをあずかることにした。


 また、助けた魔法少女たちも守る必要がある。

 美月が再度、変身を行うと一度『影の妖狼シャドーウルフ』がリセットされてしまう。


 俺は『切り札』となるクラスカードを美月に見せ、


「大丈夫だ、手なら考えて……」


 そう言い掛けた時だった。機械兵器――いや、巨人が動く。

 どうやら、こちらを狙っているようだ。


(カードの魔力に反応したのか⁉)


 魔力を十分に集めた今となっては『魔法少女は敵である』という認識のようだ。

 4本の腕の内、槍を持つ腕を動かす。


 巨体のため、ゆっくりとした動作に見えるが、そうではない。

 不味まずいな――かさず後方へと飛び退こうと考えた。


 だが、それでは次の一手が遅れてしまう。


(誰かがおとりになるべきだ……)


 こういうのは〈ニンジャ〉を使える俺の役目だったのだが――

 生憎あいにく、肝心の〈ニンジャ〉のカードは美月が使用している。


 巨大な槍の刃先が床をつらぬいて出現する。


(向こうにとっては天井なんだろうな……)


 その衝撃で壁まで飛ばされてしまう。

 咄嗟とっさに美月が俺をかばってくれた。


 そのため、俺は怪我けがまぬれることができたようだ。

 白愛は〈フェアリー〉の姿で【飛行】している。


 気を失っている魔法少女たちは壁側にいたので問題なさそうだ。

 ただ、中央の穴が広がってしまった。


 これでは合流するのに、回り込む形で移動しなければならない。

 白愛はフヨフヨと空を飛びながら、


「ふぅー! ビックリしたよ……」


 と額の汗をぬぐう仕草をする。問題なさそうだ。

 美月が俺をかばうのを見て、瞬時に換装したのだろう。


「だい、じょぶ?」


 と俺に問い掛ける美月に対し、


「助かった。ありがとう……」


 と礼を言い、彼女の頭をでた。

 美月が固まる。


 その直後――しまった!――と俺は後悔する。


(つい、犬っぽい格好をしていたのでやってしまった……)


 不味まずかっただろうか?

 馴れ馴れしかったようだ。


「べ、別に……大したことは、していない!」


 美月はそう言って――プイッ!――顔をらした。

 怒ってはいないようだが、気恥ずかしさのようなモノがあったのだろう。


 次からは、もう少し気を付けた方が良さそうだ。

 それよりも、今は『どう立て直すか』を考えるべきだろう。


(黙っていても、次の攻撃がきそうだ……)


 足場が無くなり、不利になることは目に見えている。

 状況は何一なにひとつ好転してはいない。


 しかし、真面まともに動けるのは白愛だけだ。

 彼女をおとりにして、まずは脱出すべきだろうか?


 どう考えても、レッカ店長やミーヤさんと合流して戦うのが最良である。

 だが、それは結果として、異世界人に頼ることになってしまう。


 『与えられた民主主義』という言葉を聞いたことがある。

 高校教育にも『歴史総合』が必修科目として導入された。


 どうして日本が負けると分かっていた戦争を行ったのか?

 なぜ、日本人は戦争を熱狂的に支持してしまったのか?


 冷静に受けめるべき時が来ている。今、ここで俺が引いた場合、同様に『与えられた魔法少女』と言われる日がくるかもしれない。


 正直なところ――異世界から――そんな風に言われるのはごめんである。


(そもそも、日本は社会民主主義な気もするけど……)


 『民主主義』同様に『魔法少女』もまた『勝ち取るモノ』なのかもしれない。

 フランス革命からナポレオン戦争を行っていたのに対し、尊王そんのう攘夷じょうい運動をしていた国だ。


 文明開化と言いながら、天皇親政の神道国家を作ろうとしていた国でもある。

 ある意味、矛盾ばかりのおかしな国だ。


 それでも白愛を始め、大切な人たちが住んでいる国でもある。

 漫画家である母を手伝っているため、余計な知識が増えてしまった。


 これがホモ――いや、刀を擬人化する作品や新選組などの資料をあさった結果だ。

 俺の選択肢が日本の未来を決める。


 それは最早、BLと乙女ゲーが『この国をみちびいている』と言っても、過言ではないのかもしれない。


(では、そのためには、どうしたらいいのだろうか?)


 さいわいなことに、相手は動けないようだ。

 だが『時間制限タイムリミットがある』と考えた方がいいだろう。


 恐らく、あの巨人は俺たちの世界へと出現しようとしている。

 それを許してはいけない。


 胸部に宿っていた赤い光が、次第に黒く染まってゆく。

 まるで出血した血が、ドス黒く固まるかのようだ。


 〈コア〉という卵から〈魔王〉と呼ばれる存在へと、孵化ふかしようとしているのだろうか?


(悩んでいる時間はない……)

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