第78話 【深淵】想い繋げて(2)


 お約束の黒い機体ボディだが、胸部の内側は赤く発光している。

 足はなく、上半身だけの存在だった。


(製造中なのかもしれない……)


 完全体になる前に決着をつけた方が良さそうだ。

 恐らく、胸部の発光している箇所が〈コア〉なのだろう。


 ただ、黒い魔法少女の時と違い、身体と融合しているようにも見える。

 〈コア〉が変身したモノなのだろうか?


 それとも〈コア〉を守るために造り出されたモノなのか?

 現状では分からない。


 更に大きさだが、明らかに今まで戦ってきた機械人形とは違う。

 コイツと比べれば、小型の機械人形など玩具おもちゃだ。


 簡単ににぎつぶしてしまうだろう。


(当然、それは俺たちにも当てはまるのだが……)


 全体的に丸みを帯びた形状フォルムは作画コスト削減のようにも見える。

 しかし、細部ディテールにはあまりこだわりはないようだ。


 それでいて、無駄にトゲの生えた肩や背中。

 腕は4本もあり、それぞれに剣と槍、斧、金棒と違う武器を持っていた。


 なにやらレトロな感じが漂う。

 一旦、距離を取った方が良さそうだ。


 俺は――しーっ!――と口元に人差し指を立てる。

 そして、白愛と美月に上の階へと戻るよう身振り手振りジェスチャーをする。


(ここは相手を刺激しない方がいいだろう……)


 二人とも素直にしたがってくれた。

 恐らくは――機械人形たちをベースに〈コア〉が創り出した――という所だろう。


 ただの破壊作戦が、開発中の人型兵器の破壊任務に変わってしまったらしい。

 もう少し情報が必要だ。まずは白愛から降りる。


 そして、赤い光が通っていた穴から、下の様子をうかがうことにした。

 白愛と美月も俺の真似まねをして、穴からのぞき込む。


「やっぱり、宇宙世紀、じゃない……」


 と膝を突き、謎の落ち込みを見せる美月。

 バズーカ砲やビーム兵器、ミサイルを仕込んだ盾が好きなようだ。


 頭部にバルカン砲もなければ、グレネードランチャーも持ってはいない。

 なぜ機械に剣や槍などの武器を持たせているのか、謎ではある。


 率直に言うと80年代以前のロボットのようだ。


「これって、ゲームだと……」


 エンカウントしたら絶対に勝てないタイプの敵だよ――と白愛。

 最終局面だと、逆に小さくてシンプルなデザインの敵ほど強かったりする。


 『魔王災害』の単語から、勝手に悪魔や竜の姿を思い浮かべていたのだが――


(それが未完成のロボットだったとは……)


 白愛の言いたいことはなんとなく理解した。

 見た目に反して強い――そんな気がしないでもない。


(俺が担当編集だったら、この案はボツにするけどな……)


「センスも昭和だし……」


 戦ったらダメな敵だよ――と白愛も膝を突く。

 老害にはなにを言っても無駄。言葉は通じない。


 落ち込む姿は二人ともソックリである。それはかくとして、


(魔法少女がとっていい姿勢ポーズではないな……)


 状況から見てもRPGのダンジョンに配置されている『ボスキャラ』で間違いなさそうだ。確かに昭和っぽいデザインだが、懐古主義なのだろうか?


 関節部分が、どういう原理で曲がるのか興味深い――いや、違った。

 確か、黒い〈マナ〉は人々に取りいていた。


 その時に、この形状を学習していたのかもしれない。

 地方には若者の数が少なく、工業地域は働き手として外国人も多い。


 古いままの考えが定着しているようだ。

 学力の高い人間は都会へと出て行ってしまう。


 更に会社で出世できるのは、特定の大学を卒業した者たちだけだ。

 結果、量産型の人間しか集まらない。


 そこに新しい考えは生まれにくく、このような時代遅れの発想デザインになることは『仕方のないことだ』と言えた。


(こんな所にも、地域格差が出てしまうとは……)


 しかし、動く気配はない。コイツは強いので、ちゃんと準備してから戦うこと――という開発者側からのメッセージだろうか?


 言われなくても、手なら考えている。


「足がないよ?」


 だから動けないのかな?――そんな白愛の問いに、


「あんなのは、かざり……白愛には、それが、分からない」


 と美月が返答する。白愛は気にした様子もなく、


「『次世代群体遠隔操作兵器システム』でもあるのかな?」


 と次の質問をする。

 オタクは余計な知識に対して、すぐに覚えてしまうから面倒だ。


 恐らく、空中をビュンビュン飛び回る小型攻撃端末のことだろう。

 ビームをつドローンの集合体――と言った方が伝わりそうだ。


 普通に考えた場合、宇宙ならだしも、地上で縦横じゅうおう無尽むじんに飛び回って攻撃するのには無理がある。ただ、魔法が存在するので、その常識は通用しないだろう。


(少なくとも、物理的な法則は無視しそうだ……)


「魔女なら、可能、でも……」


「脳波誘導機能が付いたミサイルをつ可能性もあるよね☆」


 美月の台詞セリフに、白愛が別の可能性を提示する。

 ふざけてないで、そろそろ真面目な会話に切り替えて欲しい。


(やめなさーい!――と突っ込むべきだろうか?)


「カナッタ・マーキュリー……」


 と美月。白愛が口元を押さえて、クスクスと笑う。

 ウチの従姉ミオミオは俺の手に負えないので、勘弁かんべんして欲しい。


(オタクってホントに面倒だな……)


 だが、余裕よゆうが出てきた証拠でもある。

 俺も動ける程度には回復することができた。

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