第77話 【深淵】想い繋げて(1)


「どうして、逃げない?」


 と美月は質問する。

 俺は今、白愛に背負われる形で運ばれていた。


(最近は、運んでもらってばかりだ……)


 美月は、そんな俺たちの後ろを付いてきている。

 ちなみみに意識を失っている黒い魔法少女の二人。


 彼女たちは、美月が召喚した『影の妖狼シャドーウルフ』に運んでもらうことにした。

 美月に頼むと、もう1体を追加で召喚してくれたので助かっている。


 ただ、その背中は揺れるため、乗り心地は良くなさそうだ。

 けれど、今は我慢してもらうしかない。


 美月には俺のカードを貸したままにしている。

 変身できない俺が持っていても意味がないだろう。


(それに変身を解除した場合、召喚した『影の妖狼シャドーウルフ』も消えてしまう……)


 俺としては歩けないこともないが、今は回復に専念したい。

 推測が正しければ、下の階層フロアが面倒なことになっているはずだ。


「美月が疑問に思うのも当然か……」


 と俺は返答した。さっさと空を飛んで逃げるのが正しい判断だろう。

 レッカ店長たちと合流する方がいいに決まっている。


「悪いけど、状況を確認したい……」


 もう少し付き合ってくれ――と俺はお願いした。

 まだ、一階にあった〈コア〉を破壊していない。


 この塔が『維持されている』ということは、健在なのだろう。


「〈コア〉を壊すんだよね☆」


 と白愛。簡単に言ってくれる。

 正直、あんな大きなモノを壊しても大丈夫なのだろうか?


「ああ……」


 俺は短く答えた。レッカ店長も壊せと言っていたし、できれば『破壊しておきたい』のも事実だ。


 ただ、どんな被害が出るのかは分からない。

 恐らく、破壊すると同時に、この〈深淵アビス〉は崩壊する。


 しかし、それよりも――


「問題は〈コア〉を破壊した際――俺たちの世界にどんな影響があるのか?――だな」


 壊すしか方法はないのだろう。

 しかし、出来る事なら被害を最小限に食い止めたい。


 そんな俺の考えを察したのか、


「経験が、ない……」


 と美月。彼女も、どうなるのかは分からないようだ。

 もし影響があった場合、白愛や美月に〈コア〉を壊させるワケにはいかない。


 俺が壊すことで――


(罪も責任も、俺が背負おう……)


 街の住民は避難していたので、人的被害だけは避けられそうだ。

 しかし、行き場のなくなった魔力の暴走も、十分に考えられる。


 あの黒い〈マナ〉が飛散するだけでも、面倒なことになるだろう。

 影響する範囲が、どの程度なのか想像がつかない。


「それでも、やるしかない……」


 ここでなにもしないことの方が『悪手である』ことは、直感で理解していた。

 雪都さんが――『創魔研』を掌握しょうあくする――という強硬手段に出たことも、恐らくは関係があるのだろう。


 このタイミングということは『予想している被害に対処する』ということも計算に入っているはずだ。


 組織のトップが代わり混乱する中、『魔王災害』という外のトラブルに目を向けさせることができる。


 内輪でめている場合ではない――というワケだ。

 また、ここで有能な指揮をれば、雪都さんの実績となるだろう。


 そうなれば、日本政府としても以降の『魔王災害』に対して、彼を無視することはできない。


(澪姉が考えそうなり口だな……)


 つまりは『被害が出る』ことが前提だった作戦となる。

 自衛隊の出動が早かったことも、この展開を見越してのことだろう。


(なら、俺がすることは……)


 やはり、被害を最小限に留めるコントロールすることだ。

 せめて〈魔眼〉を――もう少し使いこなせていれば良かった――と後悔する。


「すまない……美月の体調が悪いのは理解している」


 それでも――と俺がすべてを告げる前に、


「問題ない、白愛より、役に立つ……」


 フンスッ!――と美月。心做こころなしか、尻尾がパタパタと反応している気もする。


なんで私が基準なの⁉」


 と引き合いに出され、おどろく白愛。

 すでに仲良くなったつもりだったのだろう。


 二人で協力して頑張る!――という答えを想定していたようだ。


「白愛には、負けない……」


 なぜか美月は息巻いている。


(まあ、戦闘時の連携コンビネーションは上手く取れていた……)


 心配は要らないだろう。白愛は――納得がいかないよ――といった様子だったが、俺は特にフォローをしなかった。


 それよりも四つの区画に分かれていた塔だが、物理的な間隔が狭くなっている。

 のぼる時は【飛行】する必要があったのだが、りる今となっては、その必要もない。


 このまま放って置けば、完全に隙間はふさがり、一つの塔になりそうだ。


(ただ、その時は、この世界アビスは消失しているかもしれないな……)


 いつの間にか、見張りの機械人形も姿を消していた。結果的に問題なくりることはできたが、言いようのない不安が大きくなって行くのを感じる。


 それは白愛と美月も同じようだ。

 二人とも言葉にはしなかったが、階を下りるごとに口数が減っていくのが分かる。


 そしてようやく、最下層に辿たどり着くのだが――俺と白愛、そして美月も――三人とも言葉を失った。


 そこには、一際大きな機械人形が存在していたからだ。

 いや、これは最早――


(人型兵器と呼んだ方がいいかもしれない……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る