第76話 【決着】白愛と美月(3)


 回避に専念していた白愛だったが『美月の支援サポートを受けられる』ということで〈フェンサー〉へと換装する。


 確かに相手が〈スナイパー〉であるのなら、接近戦の方が有効だろう。

 ただ、空中という優位性アドバンテージを捨てることになる。


 白愛には、なにか考えがあるようだ。

 丁度そこへ、柱の陰から銃弾が降り注ぐ。


 氷が融けたらしい。視認はせず、銃口だけを向け、散弾を発射する。

 白愛と美月は一度、その攻撃を見ていた。


 ある程度は予想していたようで、二人は素早く回避を行う。

 同時に白愛は強化魔法である〈アイシクル〉を使用した。


 彼女をおおう魔力が白へと変わり、出力が上がる。

 レイピアを振るうと白銀の刃が飛び、銃弾と周囲を凍り付けにした。


 一方で美月は狼を影の中へと潜行させ、一緒に姿を消す。

 【潜行】状態となる〈シャドームーブ〉を使用したらしい。


 これでは、どこから現れるのか分からない。

 〈スナイパー〉は柱から顔を出すと、見えている白愛に狙いを定めたようだ。


 かさず銃を構えるが、白愛も再び冷気の刃を放つ。

 考えなしか――とも思ったが違うようだ。


 氷刃が飛ぶため、攻撃と防御が一体になっている。

 更に銃弾で氷刃が砕かれた際も、細かな氷となって宙を漂う。


 一時的にだが、目眩めくらましにもなっているようだ。

 白い冷気の輝きが、相手の視界を奪う。


 白愛を狙うにも標準が定まらないため、銃撃の間隔リズムくるうらしい。

 その隙を美月が見逃すはずもない。


 〈スナイパー〉が美月の魔力を感知したようだ。

 床へと銃口を向ける。


 しかし、先に美月が召喚した『影の妖狼シャドーウルフ』が背後から現れ〈スナイパー〉へとおそい掛かった。慌てて防御ガードする〈スナイパー〉。


 はたから見ると大きな犬がじゃれついているようにも映る。

 どうやら、美月の狙いは相手の銃を封じることだったらしい。


 その証拠に『影の妖狼シャドーウルフ』は銃に噛みついたまま離れない。


(しかし、いつの間に移動を?)


 その疑問はすぐに解けた。白愛が凍らせた床の氷が〈スナイパー〉へと届いている。美月は氷によって作られた影の中を『影の妖狼シャドーウルフ』に潜行させたのだろう。


 魔力の高い自分の方をおとりにして、注意を引いたらしい。

 美月は氷の影から現れると〈スナイパー〉に素早く足払いを掛ける。


 ちから一辺倒いっぺんとうかと思っていたのだが――いったい、そんな体術をどこで学んできたのだろうか?


 そう言えば、白愛が格闘漫画にまっていた時期があった。


(まさかな……)


 〈スナイパー〉はバランスを崩し、回廊から手摺てすりを超えて落下する。

 足場が凍っているため、踏みとどまるにもコツがいるのだろう。


 落下の途中、飛行魔法を使ってくずしたバランスを保とうとした。

 だが、そこに白愛の一撃が届く。


 こうなることを予期していたらしい。

 白愛は一緒に落下していたようだ。


 レイピアに魔力を込め、胸部にある『黒い結晶クリスタル』を狙う。

 連携技の勝利――と言っていいだろう。


 『黒い結晶クリスタル』が砕けると〈クリスタルゲイザー〉同様に意識を失ったのか、再び落下を始めた。


 白愛は彼女をかばうように抱き締め、床へと着地する。

 そして、上からのぞく美月と目が合うと、笑顔を浮べるのだった。


 美月も『笑っている』と思いたいのだが、なにぶん表情がかたい。

 その場にとどまる理由もないので『影の妖狼シャドーウルフ』につかまり下へと降りてくる。


「彼方の、作戦通り……」


 フンスッ!――と得意気な表情をする美月。

 めて欲しいのだろうか?


 格好の所為せいで、余計に犬っぽい。

 しかし、俺としては――


(美月にそんな指示を出した覚えはないのだが……)


 いや、俺の戦い方を『真似まねた』と言えば、その通りだ。

 影を利用し、相手の背後に回り込む。


 単に魔法少女へ変身するために〈ウルフ〉のカードを渡したのだが、どうにも美月は勘違いをしているらしい。


 俺の戦術を『真似まねしろ』と理解していたようだ。

 今回は結果として成功したが、次からはもっと意思の疎通コミュニケーションを取る必要がある。


「そうなんだ! 彼方、ありがと☆」


 美月の台詞セリフを聞いた白愛も――感動したようにキラキラとした瞳で――俺を見詰めてくる。今更、勘違いだとは言いづらい空気だ。


(信頼される――というのも面倒なモノだな……)


 俺はそんなことを考えて、彼女たちから視線をらしたくなるのをこらえる。取りえず、


「ああ」


 とだけ答えた。そもそも、こんなことに時間を使っている場合ではない。


「さて、どうやって脱出するかだが――」


 言い掛けて、異変に気が付く。上空へと伸びていた赤い光の柱、それが――次第に細くなり――今にも消えようとしていた。


 理由として考えられるのは美月を救出したことだ。それに敵だった黒い魔法少女の二人を解放したことも関係しているのかもしれない。


 赤い光の柱は、外から取り込んだ魔力だ。

 それを黒い〈マナ〉に変換し、美月へと注ぐ。


 同時に美月の魔力は、この塔――つまりは黒い〈マナ〉を製造する装置――を形成するのに使われていた。


 急速に〈深淵アビス〉が成長した理由はそれだろう。

 魔力は、より強大な魔力へ引き寄せられる。


 しかし、今は美月も黒い魔法少女も解放した。〈コア〉が〈深淵アビス〉を創り出すために放出していたエネルギーはどうなったのだろうか?


 白愛が好きなゲームだと、基地が占領された場合は『自爆する』と相場が決まっている。しかし、この場合は違うようだ。


(悪い予感しかしない……)


 本来は美月の魔力を使って〈深淵アビス〉を完成させることが目的だったはずだ。それは『魔王召喚』とも呼ばれる自然現象ハザード――いや、災害ディザスターを引き起こすことにつながる。


 俺と白愛は、この塔で多くの魔法を使った。

 つまりは『必要な〈マナ〉が十分にまった』ことを意味する。


 一定値以上の〈マナ〉――つまりは魔力――がまったということは、


不味まずいかな……?」


 俺の問い掛けに、二人の魔法少女はそろってうなずくのだった。

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