第74話 【決着】白愛と美月(1)


 あれから、どれくらいの時間がったのだろうか?

 俺が目を開けると、美月が心配そうに、こちらをのぞき込んでいた。


(助かったのだから、もっと嬉しそうな顔をすればいいのに……)


 後頭部に伝わる柔らかい感触――膝枕ひざまくらというヤツのようだ。

 俺は美月に介抱さていることになる。


(そうか――魔力切れを起こして倒れたのか……)


 一種の栄養不足ハンガーノックといった症状だろう。


「格好悪いな――」


 俺がつぶやくと、美月は静かに首を横へ振った。そして、


「カッコ、よかった……」


 と言葉にする。

 女の子からそう言われると、なにやらくすぐったい気分になる。


 ただ、素直に喜ぶことはできない。俺の性分なのだろう。

 もしくは澪姉や母親にきたえられた弊害へいがいかもしれない。


 周囲はさわがしく、魔法をち合う音が聞こえる。

 どうやら、まだ戦いは続いているようだ。


 白愛が空中戦で頑張っているのだろう。

 決着がついていない――ということは、大して時間はっていないらしい。


 この空間は〈マナ〉にあふれている。

 そのため、俺の回復も通常より早かったようだ。


 美月と接触していたことも要因の一つだろう。完全回復とは行かないが――意識を保てる程度には回復した――ということらしい。


「どの位、気を失っていた?」


 俺の問いに、


「少し……」


 と美月は回答する。本当に少しの間なのだろう。

 美月の衣装には、いまだに黒く浸食された箇所が見受けられる。


 当然だが、彼女も万全ではない。


「これであいこだな」


 そんな俺の台詞セリフに、美月は首をかしげる。


「俺のこと、心配しただろう?」


 俺も、お前を心配した――と伝えて手を伸ばすと、そっと彼女のほほに触れた。

 他にも色々と台詞セリフを考えてはみたのだが、どうにもしっくりこない。


 結局、こんな単純な言い回しになってしまった。

 それでも、美月には十分だったようだ。


 ほほへ触れた俺の手を取り――まるで大切なモノであるかのように――そっと自分の手を重ねる。


「白愛にも……」


 お礼を言っておけよ――そう言うと、俺は無理をして上体を起こした。

 頭がクラクラするが、弱音をいている場合ではない。


 まだ、変身は解けていないようだ。

 しかし、それは俺に余力があるからではない。


 指輪である片手剣ショートソードが予備に蓄えていた魔力を使って、変身を維持してくれているのだろう。


 一応、持っていた〈マナ〉カードを確認したが、すべてのカードは灰色になっていた。いや、少しだけ色が戻っている。


 俺は気合を入れて立ち上がった。

 だが足元はおぼつかず、フラフラとしてしまう。


 後ろへ倒れそうになった所を美月に支えられた。

 それで気が抜けてしまったのかもしれない。


 変身が解けてしまう。これでは、ただの足手纏あしでまといだ。

 この場にとどまるのも危険だろう。


 しかし、白愛を援護する必要がある。


「休んで、いて……」


 と美月。決して、俺の身を案じてだけの言葉ではないようだ。

 その瞳には、キラキラとした光が宿っているように見えた。


 白愛と美月――まるで違う二人に思えたが、そういう所はソックリのようだ。

 思わず、笑みがこぼれてしまいそうになる。


「行けそうか?」


 俺の問いに、


きびしい……」


 でも、やる――と美月。こういう時の彼女は――例えめたとしても――言うことを聞いてはくれないのだろう。


 俺は自分が打てる最善手を考えなければいけない。


「そうか……それなら――」


 俺は〈ウルフ〉と〈ニンジャ〉のクラスカードを――デッキもふくめて――美月へ渡す。どうせ変身できないのだ。俺が持っていても意味がない。


 美月の持つ〈トロール〉と〈モンク〉のクラスカードは黒い〈マナ〉によって侵食されている。それらの代わりとして、彼女に使ってもらう方がいいだろう。


 美月はカードを受け取ると、コクンとうなずく。

 そして、俺から一旦離れると、変身状態である魔装を解除する。


 瞬間、黒い光が稲妻のように彼女から発せられた。

 魔装に仕組まれた〈ブラスターシステム〉の影響のようだ。


 魔力が暴走オーバーフローを起こしているらしい。

 バチバチと電撃のような音を立て、美月が痛みに苦しむ。


 俺は――大丈夫か?――と声を掛けたが、


「だい、じょぶ……」


 と手で動きを制される。

 全然そんな風には見えないので、強がっているが分かった。


 かといって、今の彼女に近づけば、俺まで魔力暴走オーバーフローに巻き込まれてしまう。

 収まるまでは、近づかない方が良さそうだ。


 俺は周囲を見回した後、倒れている黒い魔法少女の元へ歩き出す。

 そのまま、寝かせておくのも可哀想だ。


 観察した限り、彼女の周囲からは、黒い〈マナ〉の影響を感じられない。

 『黒い結晶クリスタル』を破壊すればいい――という読みは正しかったようだ。


 だが、強引に黒い〈マナ〉の影響を断ち切ってしまったことになる。

 そのため、どんな後遺症があるのかは分からない。


(いや、考えるのは後だ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る