第72話 【救出】眠り姫(1)


 再び最上階――俺と白愛は赤い光の柱から飛び出した。

 虚を突かれたのか、二人の黒い魔法少女たちの反応が遅れる。


 そうでなくては、こちらも困るというモノだ。

 機械人形に乗ったまま防御魔法である〈プロテクション〉で防御壁を展開する。


 そして、そのまま赤い光の中へと飛び込み――【飛行】して来た――というワケだ。光の柱自体が魔力のかたまりのようなモノである。


 そのため、光の中で魔法を使用したとしても、敵に気取られることはない。

 ただ――無事では済まない――というのは覚悟していた。


 だが、実際は想定していたよりも被害は少ないようだ。

 白愛の持つ〈イレイザーシステム〉による影響かも知れない。


(赤い光のネルギーを中和したのだろうか?)


 俺たちは機械人形の頭部を開け、勢いよく飛び出す。

 機械人形の外装は多少傷ついていたが、まだ戦えるようだ。


 熱を持っているためか、水蒸気のような白い煙を出している。

 触るのは危険なようだ。


 赤い光の柱の中では、ダメージを受け『ユニットが消滅する』と考えていた。

 そのため、召喚は無駄だと思っていたのだが――


(これなら白愛に『雪の精霊ジャックフロスト』でも召喚させれば良かっただろうか?)


 俺は雪だるまの格好をした少女を思い浮かべる。


(冷たいので却下だな……)


 そもそも、あの狭い空間に三人は無理だ。

 俺は一瞬で考えをなかったことにする。


 カチッ!――と機械人形は頭を元に戻す。

 もう機械かどうかすら謎だが、気にしない方がいいだろう。


 今回は防御の高い〈ナイト〉のクラスである俺と機械人形が盾になる。

 ゲームの場合、〈スナイパー〉による狙撃は後衛にも有効だ。


 しかし――〈ナイト〉の持つアビリティ――【かばう】で攻撃を引き受けることができた。また〈ダブル〉で創り出した機械人形も、装甲だけなら十分に高い。


 実際はカードゲームのように上手くは行かないだろうが、それでも弾除けくらいにはなるだろう。


 一方で、飛び出すと同時に美月の元へ向かった白愛は〈ヒーラー〉から〈フェンサー〉に換装していた。


 〈クリスタルゲイザー〉もいたが、身体の大きな機械人形の方に気を取られたらしい。攻撃対象を誤ったようだ。


 その隙を見逃さなかった白愛の〈ハイスラッシュ〉により、打っ飛ばされる。

 機械人形に対し〈シャドーウィップ〉を使用したようだ。


 その攻撃が届くに前に、魔法は無効化キャンセルされた。

 追撃の機会チャンスでもあったが、今は美月を助けることの方が優先だ。


 白愛は彼女のそばへ駆け寄ると、素早い剣捌けんさばきで拘束を解き、装置から助け出した。装置に見えているだけで、機械というほどのモノではないのだろう。


 恐らく、魔法陣が装置の台座に仕組まれているのかもしれない。

 なんにせよ、上手くいって良かった。


 打っ飛ばされ、床に転がっていた〈クリスタルゲイザー〉は起き上がり、美月が救出されたことに気が付いたようだ。


 白愛たち目掛けて、再び〈シャドーウィップ〉を使用する。

 しかし――バビュンッ!――とビームが発射された。


 白愛のことだから、これを計算して行ったワケではないのだろう。

 ビームを発射する機会をうかがって、ウズウズしていたに違いない。


 女子にしては珍しく、そういうモノに『ロマンを感じる』ようだ。

 ドーンッ!――と音を立て、またもや〈クリスタルゲイザー〉が吹っ飛ぶ。


 彼女も操られているだけなので、不憫ふびんに感じるがむを得ない。

 機械人形の方は今ので魔力がきたのか、動きがまってしまった。


 再び動作を行うには、少し時間が掛かりそうだ。

 どの道、今の俺は〈スナイパー〉の攻撃を防ぐための盾にてっするしかない。


 〈スナイパー〉の方を向いたまま、白愛のもとへと近づく。

 理屈は分からないが、アビリティの効果で攻撃が俺の方へと吸い寄せられてくる。


 〈プロテクション〉が欲しい所だが、贅沢ぜいたくめておこう。


なんとか、銃撃は防げているしな……)


 やはり、相性は重要なようだ。

 俺が防御にてっすることで、ほぼダメージは無効化できている。


 〈守護者ガーディアン〉を召喚しても、魔法少女相手では瞬殺されるのがオチだろう。

 となれば、このまま白愛と美月の盾役を続けるしかない。


 攻撃を防いでは後退を繰り返し、白愛のそばまで辿たどり着く。


「大丈夫! 美月!」


 と白愛が美月に呼びかけていた。〈イレイザーシステム〉によるモノだろうか?

 美月の外装から、侵食を意味する色であった黒が消えてゆく。


「うっ……」


 と美月はかすかに反応した。

 どうやら、意識はあるようだ。まずは一安心。次に、


「う~ん……」


 と声を出して、ゆっくりと彼女は瞳を開いた。

 良かった――ほっと胸を撫で下ろす白愛に対し、


「ふぁ~」


 と身体を伸ばし、暢気のんき欠伸あくびをする美月。

 単に眠っていただけのようで、拍子抜けしてしまう。


 白愛はそんな美月を抱き締めたが、感動の再会をしている余裕はない。

 〈クリスタルゲイザー〉が起き上がれば、形勢は逆転されてしまう。


「白愛、次の作戦だ……」


 俺の台詞セリフで、白愛はゆっくりと美月から離れた。

 美月の方は寝惚ねぼけているのか、まだウトウトとしている。


 だがそれは――慌てた様子がない――とも言えた。

 彼女は白愛を通すことで、こちらの状況を把握できる。


 白愛もそれが分かっているから、多くは語らないのかもしれない。

 やはり、二人の間には特別なつながりがあるようだ。


 言葉は要らないらしい。

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