第63話 【異界】押し寄せる軍勢(3)


 ウイルスの開発と一緒で、魔力の強化と同時に崩壊させる研究も行っていたらしい。黒い〈マナ〉が生成されるほど、崩壊への時間は近づいてくる。


 要は時限爆弾のようなモノだ。『創魔研』は美月のような魔法少女を『複数体』製造しようと考えていたのだろう。


 勿論もちろん、造り出された少女たちは使い捨てとなる。

 結果〈深淵アビス〉の数だけ、その命は失われてゆく――


 あの温厚な雪都さんが『強硬策に出る』というのもうなずけた。

 白愛の使う『イレイザーシステム』は〈マナ〉の浄化が目的だ。


「〈マナ〉と共存する『異世界アナザー』、魔力をエネルギーととらえる『創魔研』……」


 認識の違いだろう――と雪都さんは語ってくれた。

 そして、そのどちらとも違う力を俺にたくしてくれたのだ。


「彼方、行くよ!」


 と言って白愛が駆け出す。助走をつけるようだ。

 俺は彼女に合わせて走る。そして、白愛が跳躍ジャンプすると同時に俺も跳躍ジャンプした。


なんとかついて行けそうだな……)


 現状、変身したことによる反動はない。〈フライ〉などの飛行魔法を使えば俺も飛べないことはないのだが、ただでさえ少ない魔力だ。


 今は少しでも温存しておきたい。

 白愛に肩を借りながら、移動するのがベストだろう。


 そんな俺たちの横にレッカ店長は並ぶと、


「あまり高く飛ぶな……」


 敵に見付かるぜ――と忠告してくれる。

 確かに黒い魔法少女が出てきた場合、厄介やっかいだ。


 異世界人であるレッカ店長やミーヤさんは立場上、手を貸してはくれないだろう。

 白愛もそれは理解したのか、すぐに高度を下げた。


 レッカ店長は満足したのかニヤリと笑うと、


「素直な良い子ちゃんで助かるぜ」


 そう言って俺たちの前方へと移動すると、クルリと反転した。

 前を見ず、彼女は器用に飛行する。


 あまりめられた飛び方ではないと思うのだが、それだけれているのだろう。


「〈深淵アビス〉は魔法少女をあやつっている」


 当然、彼女たちが使うカードも同じだ――そう言った後、前を向いたかと思うと彼女は加速する。同時に前方の地割れから、突如として黒い影が出現した。


 それを察知していたのだろう。魔力のこぶしで撃破すると俺たちのもとへと戻ってくる。気を付けるべきは黒い魔法少女だけではないようだ。


「侵食されている世界は、この世界だけじゃない」


 極力、戦おうとはするな!――と再度、忠告を受ける。

 確かに今までの戦いでも、出現する敵の数は多かった。


 ここはそんな敵の総本山である。真面まともに戦っていては消耗するだけで『美月を助ける』という目的は果たせないだろう。


 どう考えても、あの黒い魔法少女たちを相手にしなければならないのだ。

 例え多くの魔力を持つ白愛であっても、その魔力は温存するに限る。


「いいか〈コア〉を壊すことに集中するんだ!」


 その説明に、


「はい、分かりました!」


 と白愛。しかし、出てくる魔物を迂回うかいして進んでいたのでは、時間が掛かって仕方がない。そんなことを俺が言い出す前に、


「アタシとミーヤでおとりをやってやるから、お前たちは先に行け!」


 大暴れしてやる――とレッカ店長。指示と同時に不吉なことを口走る。

 どうやら敵を引きつけるため、適当な場所で暴れるつもりのようだ。


「だ、大丈夫ですか?」


 心配する白愛に、


「なぁに――〈深淵アビス〉での素材採取だ――と言い訳するさ」


 と言って、レッカ店長は親指を立てる。どうやら、余計な心配だったらしい。

 彼女たちにとっては必要以上に、この世界へ干渉することの方が問題のようだ。


「あの森の真上で、暴れるのが良さそうだな」


 レッカ店長はそう言って、ニヤリと笑う。ストレスでも溜まっているのだろうか?

 随分ずいぶんと好戦的なようだ。


 俺は森の中にいくつか高い魔力反応を感じた。

 隠れる場所が多いため、敵が多く潜んでいるようだ。


「分かりました。お願いします」


 俺はそう言って、二人に任せることにした。

 白愛に一度、地上へ降りて身を隠すように指示する。


「気を付けてください」


 と白愛は二人に言うと『青のクラスブルー』〈フェンサー〉へと姿を変えた。

 地上では、こちらの方が動きやすいと判断したのだろう。


 俺は白愛の着地と同時に森の中を全力で走る。

 飛行により生じた推進力を相殺するためだ。


 同時に移動距離を稼ぐこともできる。

 ただ平坦ではなく、木々も乱立していた。


 そのため、転びそうになったり、ぶつかりそうになったりしてしまう。

 俺と白愛は息を合わせて、なんとか回避する。


「ひぃぃぃ~っ!」


 と白愛は悲鳴を上げるが、器用にかわす。

 頼もしい限りだ。俺は舌をみそうになるので黙っていた。


 恐らく、この作戦がベストなのだろう。

 勿論もちろん、レッカ店長に助けてもらうこともできた。


 だが、俺たちの世界は、俺たちの手で救わなければならない。

 そうしなければ、後々面倒なことになるのは明白だ。


 支援という名目で『魔王管理局』の人間を受け入れることになるだろう。

 また、防衛のための費用を用意しなければならない。


 『弱い』ということは、悪ではないが『罪』だ。

 賢く立ち回る必要があった。


 俺と白愛――そして美月で、この事件を解決することが彼らと対等に渡り合うための最低条件である。


 どの道、塔の正確な位置は俺にしか分からない。

 レッカ店長も、それは分かっていたはずだ。


 だから俺と白愛をできるだけ、無傷な状態で塔へと送り込むことにした。

 澪姉のことだ。ここまで考えて、俺と白愛を組ませたのだろう。

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