第62話 【異界】押し寄せる軍勢(2)


 白愛が変身した時と同様のまぶしさはない。

 単純に俺の魔力が低いためだろう。


 カードを確認すると〈クラス〉カードのデータが初期化されていた。

 〈ナイト〉と〈ウルフ〉のカードに戻ってしまう。


 習得していたアビリティも消えている。

 元々、俺の魔力ではカードを新しく生成することはむずかしかっただろう。


(これは仕方のないことか……)


 俺は考え方を切り替えると、最初の変身を〈ニンジャ〉に決める。

 指輪を強くにぎって念じると足元だけが換装された。


 どうやら、俺の魔力量に合わせて調整してくれたようだ。

 指輪の形は小手グローブへと変わる。


 俺は同時に自分の指先を見詰めた。

 今にして思えば、白愛の時は魔力が高すぎたから、血が出たのかもしれない。


 一種の『暴走状態だった』と考えると納得もいく。

 今は指輪も学習して、白愛の魔力を制御してくれているようだ。


(いや、今は白愛の心配をしている場合じゃないな……)


 自分のことを考えるべきだろう。軽く身体を動かしてみたが、思った以上に軽い。

 なるほど、これなら山も楽々と登れそうだ。


「わぁっ☆ 彼方も変身したの⁉」


 と白愛。俺は冷静に――靴だけみたいだがな――と返す。そんな俺の言葉が聞こえているか分からないが、彼女は俺の周りをウロチョロとする。


 まるで自分のことのように嬉しそうだ。


(正直、鬱陶うっとうしい……)


「白愛、来い」


 俺はそう言って――何々なになに?――と近づいてきた白愛に、肩を借りるような体勢でピッタリとくっついた。


 勢い余って頬同士が触れてしまったが、まあ良しとしよう。しかし、


「ひゃわっ!」


 変な声を上げる白愛。おどろきすぎではないだろうか?

 耳も痛いし、少し傷ついた。


「嫌か?」


 そう言いながらも、俺は白愛の手を自分の腰へと持って行く。


「う、うんん!」


 白愛は慌てて首を横に振った。

 今更、ずかしがるようなことはなにもないと思うのだが――


(おかしなヤツだな……)


「後ろから、める方が良かったか?」


 俺の問いに、白愛は顔を真っ赤にしてうつむく。どうにも、意思の疎通そつうができていない気がする。俺は塔のある方角を指差し、


「向こうまで移動するから、白愛の飛行能力で俺を運んで欲しい」


 と説明した。白愛は――ハッ!――としたような表情を浮かべた後、


「ああ、そういうことか……」


 なぜか意気消沈したように、残念そうに台詞セリフく。

 悪いことをした気になるので勘弁して欲しい。どうにも調子が狂う。


「嫌かもしれないが、我慢がまんしてくれ」


 後で埋め合わせ――ご馳走ちそうの準備――をしないといけない。

 そんなことを考える。


「い、いや、そのね――ビックリしただけで……」


 嫌ってワケじゃ――となにやらモニョモニョと白愛がつぶやく。

 その様子をレッカ店長が腕を組んでニヤニヤと見詰めていた。


 ミーヤさんは左手を頬に添え――あらあら――そんなことを言って微笑ほほえむ。正直、言い返したい所だが、その手の反応にはれている。


 俺は言い訳することをあきらめると、


「落とさないでくれよ」


 と白愛にげた。無駄に時間を食うワケには行かない。

 う、うん!――力強くうなずく白愛だが、いまいち不安だ。


「しっかりつかまった方がいいか?」


 俺の問いに、


「え、えっと……」


 心の準備が――と白愛。それはこっちの台詞セリフではないだろうか?

 これから白愛のアクロバティックな動きに振り回される予定だ。


 心配すべきは俺の三半規管のような気がする。彼女自身は特に意識することもなく飛行しているのだろうが、戦闘時の白愛は縦横無尽に飛び回っていた。


 美月の時といい、少しは振り回される俺の身にもなって欲しい。


(まあ、白愛が『待ってくれ』というのなら、落ち着くまで待とう)


「ご、ごめんね」


 と白愛。大きく息を吸った後――フーッ!――とく。そして、


「も、もう大丈夫だから☆」


 そう言って、ニコッと笑うのだった。

 顔が近い所為せいもあるが、そういう不意打ちはめて欲しい。


 別の意味で心臓に悪いからだ。

 そんな俺たちの様子を見ていたレッカ店長は後頭部をいていた。


 緊張感のない俺たちにあきれているのだろう。


「落ちないように、しかっりとつかまっていてね☆」


 よーしっ!――と気合を込める白愛。

 本当は安全重視のゆっくりとした空の旅をお願いしたい所だが――


「悪いが、急ぐ必要がある」


 と俺は告げる。

 美月を助ける条件の一つにタイムリミットがあった。


 『ブラスターシステム』――それが美月の変身した姿に搭載されているシステムの名称だ。


 魔法少女としての適性が低い者でも、強制的に魔力の出力を限界値以上まで引き出す。当然、代償として魔力――魔法少女として――の寿命は短くなる。


 ただ美月の場合は元々、魔力が高いためシステムの影響は受けていなかったようだ。問題があるのは、もう一つの機能の方だった。


 魔法少女が敵に捕まった場合〈コア〉として利用される可能性が高い。その際『魔力を崩壊させる』という自爆に近い機能が発動するように仕組まれていた。

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