第61話 【異界】押し寄せる軍勢(1)


「おっと、そうだ……」


 とレッカ店長。なにやら魔力の力場を形成し、召喚魔法を行う。


「コレを返しておくぜ!」


 そう言って、彼女が放り投げたのは拳銃型のデバイスだった。

 俺は片手で受け取る。


 てっきり壊された後――澪姉が回収した――と思っていたのだが、レッカ店長へ修理をお願いしてくれていたようだ。


 澪姉は俺が『彼女を頼ること』を分かっていようだ。

 また、レッカ店長は技師としての技術を持っているらしい。


 しかし一朝一夕で、できるモノなのだろうか?


「レッカは戦闘よりも、こういう方が得意なのよ」


 うふふ♪――とミーヤさん。

 なるほど、差し詰め『錬金術師アルケミスト』といった所だろうか?


「ありがとうございます。レッカさん」


 俺が素直に礼を言ったことが意外だったのか、彼女は困惑した表情を見せる。

 そこまで性格がひねくれているつもりはなかったので心外だ。


 フンッ!――とレッカ店長はそっぽを向く。

 照れ隠しのつもりだろうか? そのまま、俺と視線を合わせずに、


「で、『お姫様』の場所は分かるのか?」


 と質問してくる。『お姫様』というのは美月のことだろう。


「恐らく、あの塔の中だと思います」


 と俺は黒雲が立ち込める場所を指差す。この原始の世界にいて、明らかに不自然な人工物がそびえ立っている。だが――


「ん? アタシには見えないが……」


 レッカ店長はそう言って額の上に手をかざし、遠くを見詰めた後、


「もしかして、お前〈魔眼〉持ちイーヴィルアイか?」


 と彼女はおどろきつつも、嫌なモノを見るような目つきで俺をにらむ。

 確かに視力は他人ひとよりもいい方だが、そういう単純な話ではなさそうだ。


 思い起こせば――俺には見えていたが、白愛には見えていなかった――そんなことが何度なんどかあった。今回も、それと関係がありそうだ。


 どうやら魔力の感知能力によって、この世界では視界の範囲が異なるらしい。

 この分では白愛にも、塔の姿は見えていないだろう。


 同時に〈魔眼〉イーヴィルアイという単語も気になる。


〈魔眼〉イーヴィルアイ?」


 俺はそうつぶやくと首をかしげた。

 やれやれだ――とばかりにレッカ店長は肩をすくめる。


「自覚なしかよ――まあいい……」


 彼女はそう言った後、


「ミーヤ、〈コア〉の場所は?」


 とミーヤさんにも確認する。

 あごに人差し指を当て――う~ん――と彼女はうなる。


 大人びた姿の割に子供っぽい仕草で考え込んだ後、


「たぶん今、彼方くんが指差した辺りよ」


 と回答した。つまり魔力感知にける能力は、この中で俺が一番高いらしい。


「間違いなさそうだな……」


 とはレッカ店長。ミーヤさんに言われて納得したようだ。

 俺が指差したのは、かなり遠くの方だった。


 現実世界では、そこまで距離は離れていなかったのだが、不思議なモノだ。

 辿たどり着くには谷を越え、山間にある森を突っ切る必要がある。


 まあ、山といいつつも、切り立ったがけのような絶壁が存在していた。

 地殻変動で大地が動いているのだろう。油断すると地震も発生しそうだ。


 いくら魔法少女とはいえ、山を登るのは危険かもしれない。


(空を飛べるのだから、あまり関係ないか……)


 今、確認すべきは〈コア〉についてだろう。俺が質問するとミーヤさんが、


「物質を取り込んで〈マナ〉を生み出す『魔力の結晶』があるの」


 と教えてくれる。この世界――〈深淵アビス〉――を形成するためのエネルギーを生み出しているようだ。確かに塔の真上から天に向かって、赤い光の柱がのぼっている。


 その光の柱は上空の黒雲へと吸い込まれていた。

 もしかすると黒雲だと思っていたのは黒い〈マナ〉なのかもしれない。


 塔の形状もなにか変だ。円錐えんすいに近い形をしている。

 不思議なことに塔の一部は分離しているようでつながっていない。


 隙間を空けて、四段程に分かれていた。

 どういう原理かは分からないが、塔の間には空間が存在する。


 実際はそう見えるだけかもしれない。

 空間がゆがんでいるだけの可能性もあれば、単純に浮遊している可能性もある。


 赤い光は、最初はぼんやりとした霧や煙に近い状態だったが、上の階層へ向かうごとに細く強い光になっていた。


 そう考えると塔全体が巨大な装置のようにも思えてくる。

 純度の高い〈マナ〉を取り出すための『ろ過装置』なのかもしれない。


 その話をレッカ店長にすると、


「やっぱり〈コア〉がある場所だな」


 と彼女は確信する。外から物質を取り込むことで〈マナ〉へと変換して――この世界を魔力で満たそうとしているのかもしれない――と教えてくれた。


 そうすることで、この世界は安定するらしい。


(一つの世界を終わらせて『新しい世界を創り出す』ということか……)


 もしかすると、俺が思っている以上に時間はないのかもしれない。

 急速な〈深淵アビス〉の成長は外の世界――俺たちの世界――の破滅を意味する。


 俺は雪都さんからもらった指輪をめると、拳銃型のデバイスにカードをセットした。今ある〈クラス〉カードは美月の〈ランサー〉をのぞけば、ちょうど3枚だ。


 『青のクラスブルー』〈ダークナイト〉、『赤のクラスルージュ』〈ダークウルフ〉――そして『緑のクラスヴェール』〈ニンジャ〉である。


 俺は覚悟を決めてトリガーを引いた。

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