第64話 【異界】押し寄せる軍勢(4)


 森は山間部にあるため、俺たちは山の方へと移動した。

 周囲が見渡せる高台を見付けたので、そこへ身をひそめる。


 ミーヤさんがニコニコと微笑ほほえみ、手を振ってくれていた。

 安心して見ていてね♪――といった所だろうか?


 レッカ店長が『暴れる』と言っていたので、できるだけ二人から距離を取った方が良さそうだ。特にレッカ店長の方は『加減』というモノを知らないような気がする。


 目配せだけで、白愛は俺のやりたいことを理解してくれたようだ。

 俺の行きたい方向へ合わせ跳躍する。


 練習をしたワケではないが、この辺は息が合う。

 幼馴染だからだろうか?


 移動の際、チラリと視線を向けたが、ミーヤさんはレッカ店長となにか話しているようだった。


「あらあら、仲がいいのね♡」


 うふふ♪――とでも言っているのだろうか?

 下手に動き回って、敵と遭遇そうぐうしては意味がない。


 適度に距離を取ったので俺たちは再度、身をひそめる。〈ニンジャ〉のスキルである『忍具』を使用し、隠密状態となって敵の出方を待つ。


 その間、魔力をめていたレッカ店長が森へ向けて、拳を放った。

 出鱈目でたらめに見えるが、野生の勘だろうか?


 高い魔力の反応がある場所へと命中させてゆく。

 森のいたる所で獣の咆哮ほうこうが上がった。


 いや、悲鳴のようにも聞こえる。途端、森がふるえ出す。

 地震のようでもあり、木々が揺れ、それが森全体へと広がって行った。


 まるで波のようだ。その勢いは次第に大きくなる。

 彼女たちへ向かって、黒の軍勢が大挙たいきょとして押し寄せていた。


 やはり、森に隠れていたらしい。

 他に生命がめるような場所もないので、当然と言えば当然だろう。


 あのまま4人で進んでいた場合、待ち伏せされ、取り囲まれていたかもしれない。

 出現した軍勢は、黒い獣や精霊の姿をした魔物が多かった。


 白愛の性格を考えると、戦うことを躊躇ためらいそうだ。

 ミーヤさんはその出現を予想していたのか、遠距離の魔法をつ。


 複数の光の魔法陣が展開されたかと思うと、その中央から、まるでビームのような光のエネルギーが発射される。


 塔までは届かないが、手前の荒野をぎ払った。

 威力よりも、距離を重視したように見える。


(敵を倒すため『攻撃をした』にしては中途半端な気もする……)


 どうやら魔物を一掃するのが目的ではなかったらしい。魔法をち込んだ先である荒野から黒い魔力のかたまりき出たかと思うと、それは形を作る。


 歯車やネジだろうか? 鉄くずのような部品が出現し集まってゆく。そして、黒い〈マナ〉の球体に包まれたかと思うと、次の瞬間には別の形に変わっていた。


 壊れた機械人形を思わせる――二足歩行型のロボットのような――形状だ。

 各々が不完全であり、腕や頭部なければ、歯車をき出しにしているモノもいる。


 色はすべて黒で統一され『壊れた機械人形』という表現が合っているだろう。

 同時に空には虫のような魔物が出現し、大群で空中浮揚ホバリングしていた。


 こちらも真っ黒だ。だが、色などよりも普通に見た目が気持ち悪い。

 あまり直視したくない状況だ。


(目が良い――というのも考えモノだな……)


 それらは一様に彼女たち――レッカ店長とミーヤさん――目掛けて行進を始めた。

 なんとも気味の悪い光景である。


 白愛は声を出す代わりに俺の袖を――ギュッ!――とつかんだ。

 だ、大丈夫かな⁉――と心配しているのだろう。


 しかし、あの二人なら心配するだけ無駄のような気がする。

 レッカ店長がこぶしを振るった。


 その度、こぶしから衝撃波が繰り出され、空中の敵が面白いように叩き落されてゆく。魔法ではないようだ。


 純粋な魔力のエネルギーだけで衝撃波を放っている。

 白愛の使う〈スラッシュ〉と同じ系統のスキルだろう。


 ただし、威力が桁違いだ。

 一方で地上の敵に対して、ミーヤさんが魔法を発動させた。


「〈ダークネスレイク〉」


 なにもないはずの空間から、漆黒の闇が生み出される。

 そして、その闇からしずくのようなモノが一滴、地上へと落ちた。


 次の瞬間には、闇の雫は勢いを増し、あっという間に広がって行く。

 時間はそう掛からなかった。


 森全体を黒く染めげる。しかし、おどろくのはそこではない。

 森に潜む獣や地上を行進していた機械人形たち。


 それらが次々に闇の中へと沈んで行く。

 湖というよりは、黒い沼のようだった。


 闇の底なし沼――敵は自らの重みで沈み、消えてゆく。

 その姿はなにやらあわれにも映る。


 かなり広範囲のフィールド魔法らしい。

 やはり、あの二人は放って置いても問題なさそうだ。


「しっかり、やって来いよ!」


 そんな言葉が聞こえた気がした。

 レッカ店長が俺たちへ向けてサムズアップしている。


 どうやら敵が向こうに集中している間に森を抜け、荒野を突っ切った方が良さそうだ。白愛もそれは理解したのだろう。


 隠密状態のため、互いに姿は見えないが俺を握る手に力が入る。

 すでに目視によって、最適なルートは確保していた。


 高い魔力の反応をけ、荒野は地割れや岩陰に隠れながら進めばいいだろう。

 隠密状態を解除すると――ついて来い!――と白愛に合図し、俺は駆け出す。


 こんな薄気味の悪い森に長居する理由もない。

 魔力の使い方も少しずつ分かってきた。


 塔へ近づく頃には、俺も少しは戦えるようになっているだろう。

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